浅学菲才の嘆息

水生大海さんの「最後のページをめくるまで」を読んで

著者の水生大海(みずきひろみ)さんの作品との出会いは、「社労士のヒナコ」シリーズ3部作で、作品を読んだと言うより労働法制について学ばせて頂いたのが正解かもしれない。職場の同僚にも紹介し、読んでもらって感想を出し合った。そのご縁で、本作品を読…

映画「雪道」を鑑賞して

映画「雪道」を鑑賞した。 私は、吉見義明氏らを含む多くの著書や資料を読んで「従軍慰安婦」は歴史の事実であり、なかったことにはできないという立場で映画を鑑賞した。 今回は韓国映画として制作されているが、日本人慰安婦も含めて、アジア・太平洋地域…

田中ひかるさんの「明治のナイチンゲール大関和(ちか)物語」を読んで

本書は明治期に看護婦の黎明期として活躍した大関和の伝記であり、日本の医療と看護を歴史的時代背景の中で広く捉え、看護婦養成制度の基礎などを学ぶ事ができる書籍である。明治に入って「金のために汚い仕事も厭(いと)わず、時には命まで差しだす賤業(…

三浦まりさんの「さらば、男性政治」を読んで

本書は、世界各国と比較して異常な「男性政治」の観点から、日本の政治構造に切り込み、なぜ性別均等な議会が実現しにくいのか、どのような道筋をつけるのかを論じた書籍である。また、国内外の比較、多様な文献や資料を縦横に駆使し、より客観的、科学的に…

坂本龍一の「音楽は自由にする」を読んで

1960年代生まれの我が青春のYMO。同級生達は、アイドルと横浜銀蝿全盛期を謳歌し、同級生の一部はオフコースの小田和正に陶酔し、一部の変人扱いされた少数派のYMOフリークが私だった。生まれた頃から労働歌とうたごえの中で育ったにもかかわらず、な…

堤美果さんの「デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える」を読んで

新自由主義が蔓延(はびこ)る現代は、「今だけ、金だけ、自分だけ」に陥る。2022年11月出版の著書「世界で最初に飢えるのは日本」の著者の鈴木宣弘氏も「今だけ、金だけ、自分だけ」を指摘。そして、同じ食糧問題では2022年12月出版の著書「食が壊れる」で…

仁藤夢乃さん編集の「当たり前の日常を手に入れるためにー性搾取社会を生きる私たちの闘い」を読んで

保護者や親族による性被害、虐待、ネグレクト等で孤立した少女たちは家出をし、路上を彷徨って野宿し、生き抜くために性被害者とならざるを得ない現実を突きつける。彼女たちは孤立し、保護施設などの公的機関からの紋切り型の対応に辟易とし、公的保障も受…

大塚ひかりさんの「ジェンダーレスの日本史 古典で知る驚きの性」を読んで

ジェンダーギャップ指数後進国の日本。そして、家父長制、男尊女卑、セクハラなど枚挙にいとまがない男性優位社会が続く日本。2023年統一地方選挙で女性議員は多少増加したが、古代や中世では多くの女性が執政を司り、男女はほぼ同権であり、夫婦別姓は当た…

武田惇志さん、伊藤亜衣さんの「ある行旅死亡人の物語」を読んで

行旅死亡人(こうりょしぼうにん)とは、病気や行き倒れ、自殺等で亡くなり、名前や住所が判明せず、引き取り人不明の死者を表す法律用語である。この行旅死亡人として、2020年4月兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が孤独死。遺留品には、現金3,400万円…

岡田斗司夫さんの「誰も知らないジブリアニメの世界」を読んで

2013年の「風立ちぬ」を最後に、会見までして引退宣言をした巨匠が、引退を撤回し、新作長編映画に取り組んでいることが、2016年11月にNHKで放送されたドキュメンタリーで発表された。前作から10年の長期のブランクを経て「君たちはどう生きるのか」と名…

中島大輔さんの「山本由伸 常識を変える投球術」を読んで

2023年のWBCは日本中で大いに盛り上がり、大谷翔平らと同じ先発投手陣の一角を担った山本由伸。2021年、2022年シーズンでは、2年連続の投手四冠を達成、沢村賞と最優秀選手賞にも選ばれ、オリックスバファローズの日本一にも貢献した。2022年オフには推定…

高岡滋さんの「水俣病と医学の責任-隠されてきたメチル水銀中毒症の真実」を読んで

水俣病が公害による病気であり、被害者救済が不十分であって、長きに渡って掘り起こし検診、裁判闘争や署名活動が取り組まれている認識はあった。しかし、歴史的経過、臨床症状や研究結果、そして何より、官学産による組織的、かつ恣意的な疫学的調査研究等…

有田芳生さん他「希望の共産党 期待をこめた提案」を読んで

あけび書房は、直近の2度の国政選挙の前後で、「市民と野党の共闘で政権交代を」や「市民と野党の共闘 未完の課題と希望」などを出版し、新自由主義と国家主義の自公政権に代わる新しい政治の流れを広げる発信をしてきました。今回は、立憲野党の中で、2022…

水生大海さんの「希望のカケラ 社労士のヒナコ」を読んで

お仕事・労務ミステリーと聞いてピンと来ない方も少なくないだろうが、主人公の社労士(社会保険労務士)が総務・人事・労務問題に直面し、悩み考え解決していくお仕事ミステリーの決定版。 2017年に第1作「ひよっこ社労士のヒナコ」、2019年に第2作「きみの…

芝田英昭さんの「占領期の性暴力 戦時と平時の連続性から問う」を読んで

著者は、原発問題から社会保障、医療保険の研究から、本書のテーマ「占領期の性暴力」の研究に取り組んで書籍にとりまとめた。 1945年8月15日に帝国日本は敗戦し、国民は打ちひしがれていた、もしくは戦争が終わったことに安堵していた。ところが政府は、敗…

小柳ちひろさんの「女たちのシベリア抑留」を読んで

2022年12月9日に映画「ラーゲリ-より愛を込めて」が上映され、パートナーと鑑賞した。シベリア抑留の過酷さを今に伝える感動の作品であったが、残念ながら映画では女性が抑留されたことには触れられなかったように思う。 本書は、2014年8月12日NHK「BS…

エイミー・C・エドモント(著)、野津智子(訳)の「恐れのない組織 『心理的安全性』が学習・イノベーション・成長をもたらす」を学習して

本書は、第1部で心理的安全性に関する研究の歴史的経過を丹念に検証する。第2部では、職場の心理的安全性について多くの企業や実例から多面的・複眼で検証し、盛衰を検証する。心理的安全性をめぐる組織の研究は秀逸で、「回避できる失敗」、「危険な沈黙」…

伊藤詩織さんの「裸で泳ぐ」を読んで

私の認識の中では、著者の伊藤詩織さんは、実名・顔出しで性犯罪被害を告発し、また悪辣なネット上の誹謗中傷者と闘う孤高の闘士と思い込んでいた。しかし、本書で綴られる伊藤詩織さんは、自分の生い立ちをふり返り、自分に正直に、真っ直ぐに生きてきた高…

堤美果さん「ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?」を読んで

食料をめぐる世界市場の裏で、我々が想像もなし得ない事態が展開している。食料に関する歴史を紐解き、事実を丹念に拾い集め、各国の現場に入り人びとの証言と共に、食に関する現状が暴露される。「人口肉」は本当に地球を救い人間を健康にするのか。フード…

深沢潮さんの「縁を結うひと」を読んで

著者「深沢潮」さんの作品との出会いは、「翡翠色の海へうたう」であった。その後、SNSで情報を得て「かけらのかたち」を購読し、「深沢潮」さんより短編集なら本書とご紹介を受け、「縁を結うひと」を読んだ。 在日コリアンの縁談を精力的に取り組み、生…

東畑開人さんの「聞く技術 聞いてもらう技術」を読んで

「意見を聞かない人」の象徴のように言われ続けた故安倍晋三元総理大臣、「聞いて、聞かない力」と表現された菅義偉元総理大臣、我こそはと「聞く力」を強調した岸田総理大臣の訴えは、国民に届いているのか。どうやら国民には届いておらず、内閣支持率は下…

鈴木宣弘さんの「世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか」を読んで

2022年2月に始まったウクライナ戦争で、燃料費や物価が高騰し、食品も例外なく値上げが続き、国民を苦しめている。にも関わらず、政府は防衛費(軍事費)予算を増額し、敵基地攻撃能力を高めるなど安保3文書を閣議決定し、専守防衛をかなぐり捨てて、貧国強…

谷口真由美さんの「おっさんの掟『大阪のおばちゃん』が見た日本ラグビー協会『失敗の本質』」を読んで

TBSのサンデーモーニングで、歯に衣着せぬコメントで、視聴者の溜飲を下げることでおなじみの大阪のおばちゃんこと谷口真由美さんが、日本ラグビー協会での体験談を赤裸々に綴ります。あくまで谷口真由美さんの言い分なのでしょうが、読み進めていくと谷…

吉見義明さんの「草の根のファシズム 日本民衆の戦争体験」を読んで

私が知る研究者で著者の吉見義明氏は、1990年代の従軍「慰安婦」研究、2000年代の日本軍毒ガス戦という認識であったが、1980年代の初期作品となる本書では、民衆や大衆の日記や手記、聞き取りなど膨大な資料や調査を背景として、アジア太平洋戦争を見つめ直…

有田芳生氏、森田成也氏、木下ちがや氏、梶原渉氏の「日本共産党100年 理論と体験からの分析」を読んで

2022年7月15日に日本共産党は100周年を迎え、各種出版物が発行されている。その中でもひときわ重厚なのが、中北浩彌氏の「日本共産党『革命』を夢見た100年」であり、参考・引用文献の多彩さは、中公新書の真骨頂でもある。 本書は、中北宏彌氏の書籍を肯定…

浜田敬子さんの「男性中心企業の終焉」を読んで

ジェンダー後進国と併走するように経済停滞に喘ぐ日本。働き方、価値観、組織風土から脱却し、生き方や働きがいを企業・組織として見つめ直す。言易行難な課題を、多くの企業の実践例を踏まえて、ジェンダー問題と働き方を提言していきます。 著者は元AER…

映画「ラーゲより愛を込めて」を鑑賞して

近現代史を学ぶ者として、シベリア抑留を題材にした本作「ラーゲより愛を込めて」を鑑賞した。 田舎の映画館にもかかわらず、日曜日の朝一番の上映ながら、200人程度収容の劇場の半分くらいが埋まっていて、なかなかの人気映画だと理解した。それは、純愛ド…

三橋順子さんの「歴史の中の多様な『性』-日本とアジア 変幻するセクシャリティ」を読んで

横溝正史原作、市川崑監督で製作された1976年の映画「犬神家の一族」で、信州財界の大物犬神佐兵衛が、若いころ那須神社の神官野々宮大弐さんと「衆道の契り(男色関係)」を結ぶことが描かれ、同性愛の事を知った。当時は、車で後方から追突されると「御釜…

映画「ザリガニの鳴くところ」を観賞して

原作「ザリガニの鳴くところ」が非常に良い作品で、特に和訳が丁寧・適切で感動したこともあり、11月18日(金)上映開始を楽しみに待っていて、出張明けの11月20日(日)に映画鑑賞にでかけました。 小説だから良いところ、映像になるから良いところ、両建て…

中村光博さんの「『駅の子』の闘い 戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史」を読んで

戦争がおわってから闘わざるを得なかった戦争孤児の事を知ってほしい。1945年の本土空襲が激化した敗戦前夜から敗戦後にかけて、親類に頼ることが難しい空襲被害者たちは、駅舎や地下坑道を占拠し、雨風をしのがざるを得なかった。特に、両親を亡くした子供…