浅学菲才の嘆息

書評

三宅香帆さんの「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」を読んで

専門職として社会人になって以降、職場の同僚などから「忙しいから勉強できない」「論文や書籍が読めない」という話を繰り返し聞いてきた。私自身の経験と教訓から、多忙になると物理的(時間の制約)や(脳)疲労もあり、本が手につかない。しかし、一方で…

片田珠美さんの「職場を腐らせる人たち」をよんで

精神科医として7000人を越える患者に係わってきた著者が、臨床医として職場に蔓延(はびこ)る迷惑な人たちを、事例を通じて紹介します。第1章では、職場を腐らせる人たちのイメージをつかむために、15の具体的事例を紹介し、その精神構造と思考回路を分析し…

中脇初枝さんの「伝言」を読んで

アジア・太平洋戦争末期の満州・新京(現・長春)で暮らす主人公の女学生。新京での日常生活がリアルに表現される。1932年3月1日に建国された満州国では、和(日本)・朝・満・蒙・漢(中)の五族協和をスローガンに国旗の5色旗を掲げた政策とは裏腹に、人種…

小川たまかさんの特集編集「ジェンダーと刑法のささやかな7年」を読んで

本誌の出版社エトセトラブックスは「まだ伝えられていない女性の声、フェミニストの声を届ける」出版社として、2018年12月にスタートしました。今後のVOL.11では「ジェンダーと刑法のささやかな7年」をテーマにライターの小川たまか氏が編集し、性暴力の背景…

山際康之さんの「プロ野球選手の戦争史-122名の戦場記録」を読んで

1937年7月7日盧溝橋事件に端を発し、第2次上海事件、南京大虐殺など、日中全面戦争が始まった。戦争突入の伏線は、1936年2月26日の雪深い日に起きた二・二六事件。陸軍のクーデターのわずか3週間前に、日本のプロ野球リーグが誕生した。大学野球が全盛の時代…

平井美津子さんの「(新装版)『慰安婦』問題を子どもたちにどう教えるか」を読んで

「従軍慰安婦」問題については、1991年8月14日、韓国の金学順(キムハクスン)さん(当時67歳)が、顔も名前も出して証言した。同年12月6日には、元軍人・軍属とともに日本政府に謝罪と賠償を求めて東京地裁に提訴し、日本国中に衝撃が走った。「従軍慰安婦…

鎌田華乃子さんの「コミュニティ・オーガナイジング ほしい未来をみんなで5つのステップ」を読んで

2024年5月に著者の鎌田華乃子氏の講演を聴講し、感銘を受け購読した。 世の中の出来事に「何かがおかしい」と思うことや暮らしている地域の問題に気づき、今の日本の社会や政治にも不満を感じている人に、少しでもその状況を変えられるかも知れないと知って…

小林エリカさんの「女の子たち風船爆弾をつくる」を読んで

物語は、日中全面戦争前夜の1935年(昭和10年)、東京都心で生活し、学校に通った少女の目を通して、第2次世界大戦の戦前、戦中、戦後を生活史の視点で描きます。1937年の南京陥落では提灯行列を行い、戦勝記念に湧きます。戦中は、風船爆弾組み立て工場とし…

辻山良雄さんの「しぶとい十人の本屋-生きる手ごたえのある仕事をする」を読んで

経済における失われた30年は、我々のこころに潤いを与える本屋の激減も招いた。大手書店が点在し、地方によっては書店がなくなり本に触れる機会も激減したのではないだろうか。本屋が減っても図書館を利用できるではないか、との意見はもっともだろう。 本書…

田中洋子さん(編集)の「エッセンシャルワーカー」を読んで

2020年からのコロナパンデミックで、見直された「エッセンシャルワーカー」。しかし、労働法制の変化や低賃金、長時間労働、不安定雇用などの問題は、あまり照射されない。病院や介護施設が機能しなければ「いのちや生活」が成り立たない。スーパーマーケッ…

小林祐児さんの「罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場修正法」を読んで

近年、日本の青年たちが管理職に昇進する事を忌避する傾向が顕著になっているという話しを良く耳にします。特に、ハラスメント防止法、働き方改革、テレワークの普及など、新しいトレンドが管理職の負荷を増やし続けていると警告し、管理職の「罰ゲーム化」…

加藤哲朗さんと小河孝さんの共著「731部隊と100部隊 知られざる人獣共通感染症研究部隊」を読んで

防疫給水部・731部隊研究者一人である加藤哲郎氏が、軍馬防疫廠・100部隊の研究者で獣医学博士の小河孝氏と連携して、本著が出版された。 明治維新による富国強兵の課題は、兵隊だけではなく、物資輸送等を目的とした軍馬の大量補充と体躯の大型化、馬鼻疽菌…

岡野八代さんの「ケアの倫理-フェミニズムの政治思想」を読んで

フェミニズムを深く研究し、広め、そして社会運動に参加する著者だからこそ、男性の理論で構築された社会のなかで、女性たちが自らの声で語り、自らの経験から編み出したフェミニズムの政治思想、ケアの倫理を重層的に論説する。ケアの倫理とは、女性たちの…

伊藤宣広さんの「ケインズ-危機の時代の実践家」を読んで

ケインズは経済学者として、「雇用・理事及び貨幣の一般論」を発表し、マクロ経済学の理論を展開した。本書では、ケインズの研究や業績の背景を1910年代の第1次世界大戦後の戦後処理、金本位制復権問題、1930年代の世界恐慌など、時論を展開する必要に迫られ…

平野卿子さんの「女ことばってなんなのかしら?『性別の美学』の日本語」を読んで

ドイツ語翻訳者の著者が、翻訳するときに悩む日本語の性差について、西洋語と比較して、それまで気づかなかった日本語の特性について興味深く綴ります。日本語の曖昧な表現は、時として女性語が用いられ、またコンフリクトを避ける表現としても活用される言…

NHKスペシャル取材班の「ビルマ 絶望の戦場」を読んで

「白骨街道」と言われおよそ3万の死者を出したインパール作戦。しかしその後の「撤退戦」で実に10万人を超える命が奪われたことはあまり知られていない。 前作の2017年に「戦慄の記録インパール」を取材し、NHKで放送、書籍化された続編と言える「ビルマ…

力武晴紀さんの「ザボンよ、たわわに実れ 民主医療に尽くした金高満すゑの半生」を読んで

戦前の民主医療・無産者診療所医療に尽力した金高満すゑ。1908年長崎県佐世保で生まれ育つも、小学校2年生で母を亡くし、2年後には父も逝去する。満すゑは佐治家の養女となり、新聞・書物などあらゆるものを読み尽くす読書家で、学力を発揮して佐世保高等女…

平井和子さんの「占領期の女性たちー日本と満州の性暴力・性売買『親密な交際』」を読んで

著者の平井和子氏は、一橋大学名誉教授の吉田裕氏のゼミ生を経験し、上野千鶴子氏や蘭信三氏と共に著書「戦争と性暴力の比較史へ向けて(岩波書店)」で協同研究を行った一人である。それ故に、近現代史を多面的に研究しつつ、戦時性暴力やジェンダー社会科…

藤田早苗さんの「武器としての国際人権-日本の貧困・報道・差別」を読んで

2023年11月の会議で、12月に本書に関する講演を聴講できることを知り、慌てて取り寄せて購読した。聴講はオンラインかと思ったが、対面にて聴講させて頂いた。著者も講演の冒頭で触れていたが、「武器」としての国際人権の「武器」に違和感持つことについて…

山田朗さんの「昭和天皇の戦争認識:『拝謁記』を中心に」を読んで

昭和天皇の戦争責任論は、今も二分される。少なくとも、1941年12月8日の「開戦の詔書」で昭和天皇が戦争開始を聖断し、1945年8月14日「終戦の詔書」で終戦(敗戦)を聖断している点からすれば、天皇の最終判断で対英米戦争の始めと終わりを決断しており、戦…

市川沙央さんの「ハンチバック」を読んで

某新聞の著者取材記事を読んで興味が湧き、珍しく書店での購読となった。第128回文学界新人賞を受賞したデビュー作で、第168回芥川賞を受賞している。サクッと読んだつもりが、読みにくい漢字や流れを読み飛ばしてしまい、消化不良となり、インターネットで…

染谷一さんの「ギャンブル依存-日本人はなぜ、その沼にはまり込むのか」を読んで

アメリカの精神医学会(APA)の精神疾患診断分類、「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」には、2013年から「ギャンブル障害」が掲載され、正解保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)では、すでに「病的賭博」として分類されてきた。…

深沢潮さんの「李の花は散っても」を読んで

本作品は、時代背景として元号では大正時代、西暦では1910年に朝鮮併合を行ったあとの日本と朝鮮の歴史について世界史を俯瞰しつつ2人の女性の生涯を丁寧に描く。一人の女性は、朝鮮王朝に嫁いだ日本の皇族の方子。日朝融和の象徴としての政略結婚に五里霧中…

古屋星斗さんの「ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由」を読んで

昔から「今の若いものんは」と先輩達が嘆いていたが、今も昔も「今の若者」の対応と育成には苦慮する。社会背景や生活歴の違いも大きく関与するだろうが、2020年代の若者の特徴を、リクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗氏が、統計資料等も含めて検…

保坂正康さんの「歴史の定説を破る-あの戦争は『勝ち』だった」を読んで

黒船来航で、江戸幕府が倒れて大政奉還し、明治政府が樹立されるも外国からの不平等条約で経済困窮に喘ぐ日本。戊辰戦争や西南戦争などの内戦を克服し、欧米列強並みに振る舞おうとして背伸びするが限度がある。歴史では、日清・日露の両戦役に勝利したとさ…

三浦ゆえさん企画・構成の「50歳からの性教育」を読んで

ライターの三浦ゆえ氏が企画・構成を立案し、村瀬幸浩さんをスーパーバイザーとして、著者5人の各テーマの執筆と村瀬幸浩さんと田嶋陽子さんの対談である。更年期の基礎知識と向き合い方。思い込みによるセックスの誤解解消の気づき。パートナーシップによる…

タブロイド判「日本共産党の百年」を読んで

日本共産党創立101年にあたって、2023年10月5日に成書発売の前段としてタブロイド判「日本共産党百年」を購読した。タブロイド判といえ、57ページの労作であり、結党時の時代背景や治安維持法下での困難な時代を経た戦前の壮絶な闘い。戦後の民主主義回復の…

岡野八代氏他「日本は本当に戦争に備えるのですか?-虚構の『有事』と真のリスク」を読んで

本書は、2023年1月19日に「いま、リアリズムとは何か-安保三文書を議論する」というタイトルで、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究会が主催するグローバル・ジャスティセミナー第67回として開催されたオンラインイベントを元に、編集された書籍…

医療生協さいたま看護部本編集委員会編著:続地域とともに産み・育み・看とる-コロナ禍でいのちと向き合うー」を読んで

私の所属する団体より献本頂き、早速拝読させて頂いた。最近、田中ひかるさんの「明治のナイチンゲール 大関和物語」を読んでいたこともあり、看護師の歴史を含めて、コロナ禍で奮闘した医療生協さいたまの看護職集団の事例を大切にする姿勢、さらに事例を丹…

坂本貴志さんの「ほんとうの老後『小さな仕事』が日本社会を救う」を読んで

数年前に老後資金は2,000万円などが話題になり、「老後資金がたりません」などの映画が作られ、定年後の老後を心配する声が絶えない。バブル崩壊以降の経済の停滞による可処分所得の経年的な減少、年金支給額の減額に物価高騰による生活費の高騰が追い打ちを…