浅学菲才の嘆息

吉見義明さんの「草の根のファシズム 日本民衆の戦争体験」を読んで

 私が知る研究者で著者の吉見義明氏は、1990年代の従軍「慰安婦」研究、2000年代の日本軍毒ガス戦という認識であったが、1980年代の初期作品となる本書では、民衆や大衆の日記や手記、聞き取りなど膨大な資料や調査を背景として、アジア太平洋戦争を見つめ直すナラティブな作業であり、論考は日本型「ファシズム」の変遷を検証している。

 第1章「デモクラシーからファシズムへ」、第2章「草の根のファシズム」、第3章「アジアの戦争」、第4章「戦場からのデモクラシー」の四章編成で構成される。戦争へ突入し、戦争に疑問を持ちつつも最終的には戦争を支持する民衆を追った1~3章。空襲が激化し、日本が焦土化してきた中で、民衆の中からひび割れるファシズムを、論考した4章。集団的自衛権行使の名のもとに「安保3文書」で更なる軍備増強にひた走る岸田政権と日本。「富国強兵」どころか「貧国強兵」に突進する日本。今の日本の情勢だからこそ再刊された意義を深く噛みしめ、「草の根のデモクラシー(立憲主義・民主主義・平和主義・国際協調主義など)」と言った市民運動を進めるためにも、広く手に取って読んで欲しい。

 

閑話休題

日中戦争の中で、日本軍が1942年に行った淅贛(せっかん)作戦について、2022年2月に出版された常石敬一氏の「731部隊全史」では、同作戦で細菌兵器を実践使用し、自軍である日本軍に1万人近い被害者を出したと記載されている。一方、本書の兵士の証言にはくしゃみ性の毒ガスである赤筒を使用したとの記録がある。淅贛(せっかん)作戦では、細菌兵器と化学兵器の両方が使用されたことになる。戦争の行き詰まりは経済の行き詰まりとなり、より安価な兵器となる細菌兵器や化学兵器を選択した帝国陸軍。1925年ジュネーブ議定書では細菌兵器や化学兵器の使用を国際法で縛ったが、日本やアメリカは批准は第二次世界大戦から遅れること25年ほども経過していた。また、どの程度の軍属や日本人はジュネーブ議定書を知っていたのだろうか。国際連盟を離脱した時点で、国際法は全く無視し、ハーグ陸戦条約を知っていた軍部や日本人もほとんどいなかったのだろう。だからこそ日本兵の多くが、捕虜や非戦闘員・現地住民への殺戮、略奪、強姦などの侵略行為をアジア・太平洋の地域で行ったのだろう。

 

吉見義明:草の根のファシズム 日本民衆の戦争体験.岩波現代新書,2022(8月10日第1刷発行購読,本書は1987年7月東京大学出版会より刊行された書籍の再刊となる)

 

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