浅学菲才の嘆息

三浦まりさんの「さらば、男性政治」を読んで

 

 本書は、世界各国と比較して異常な「男性政治」の観点から、日本の政治構造に切り込み、なぜ性別均等な議会が実現しにくいのか、どのような道筋をつけるのかを論じた書籍である。また、国内外の比較、多様な文献や資料を縦横に駆使し、より客観的、科学的に分析した書籍である。女性の社会進出に大きな障壁となっている性別役割分業が根強い日本の男女格差が根深い事を強調する。また、自由民主党を中心とした保守政党と宗教団体が表裏一体の政策を標榜し、ジェンダー平等を阻害し来た歴史も検証する。例えば、1970年代と1980年代には生長の家などが優生保護法を改悪し中絶を厳しい制限下に置こうとした歴史を検証する。また、現行の小選挙区制は地域の権力構造を温存させる世襲議員有利であり、比例代表の役割をもっと強めるといった改革を実施しなければ、男性政治を打破することは難しいであろうと指摘し、小選挙区制という歪んだ選挙制度の改革を提起する。ミソジニー女性嫌悪、女性蔑視)の課題では、多彩なフェミニストの発言を引用し、家父長制的な家制度の問題を提起し、オンラインハラスメント、票ハラなど、女性候補者への男性有権者のハラスメントを指摘し、海外の改善実践を紹介する。最後にクオーター制の重要性と各政党への課題を提起し、革新左派勢力の躍進が大きな鍵だとし、ジェンダー平等で多様性のある政治に向けて提起する。とりわけ、現在の自民党が抱える問題として、ジェンダー平等政策を阻んできた宗教右派との関係が続く限り教義的な政策争点において進展を見込むことはできないと指摘しする。新書ながら、重厚な書籍であり、精読するのに苦戦したものの、男性政治にじっくり向き合う良書であった。蛇足になるが、政党助成金を使用したジェンダー平等対策が提案されるが、政党助成金自体が政党政治を堕落させる点の指摘もあればと悔やまれる。

 

<注>男性政治

本書で示される「男性政治」とは、男性だけで営まれ、新規メンバーも基本的には男性だけが迎え入れられて、それを当たり前と感じる政治のあり方である。健康で、異性愛で、ケア責任を免れていることが参入条件となる。たまに女性の参入も許されるが、対等な存在としては扱われない。男性の中には序列が作られ、男性性の強さは序列に影響を与える。男性らしくない男性は一人前と見なされないか、場合によっては排斥される。つまりは、男性政治の担い手となる男性もいるが、それを拒否する男性も存在し、自ら組み込まれようとする女性もいる。男性政治とは、決して「男性」対「女性」の政治を意味するわけではない。自ら組み込まれようとする女性として、高市早苗衆議院議員杉田水脈衆議院議員稲田朋美衆議院議員などの自民党議員が該当するもの思え、最近入管法の国会質疑で物議を醸した日本維新の会の梅村みずほ参議院議員も該当するのではないかと思われる。

 

三浦まり:さらば、男性政治.岩波新書,2023(1月20日第1刷発行購読)

 

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