浅学菲才の嘆息

堤美果さんの「デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える」を読んで

 新自由主義が蔓延(はびこ)る現代は、「今だけ、金だけ、自分だけ」に陥る。2022年11月出版の著書「世界で最初に飢えるのは日本」の著者の鈴木宣弘氏も「今だけ、金だけ、自分だけ」を指摘。そして、同じ食糧問題では2022年12月出版の著書「食が壊れる」で堤美果氏が世界と日本の食料問題を指摘する。

 前振りは長くなったが、本作は、堤美果氏がコロナ禍直後に出版し、デジタル・ファシズムの問題を縦横に指摘する。

 第Ⅰ部では、「政府が狙われる」として、最高権力と利権の館である「デジタル庁」の闇を詳述する。最早(もはや)コロナ禍のオンライン会議の共通プラットホームと「Zoom」のサーバーは中国におかれ、セキュリティの課題で使用を禁止した国もるが、日本や私の知る組織は、共通プラットホームとしての活用が日常化しており、個人情報管理は大丈夫だろうかと心配になった。スーパーシティ構想でロボット化する行政のケースワーカーたちで良いのか。個々の対応に価値のあるケースワーカーではなかったか。その査証として、コロナ禍で生活困窮者が急増したのに、生活保護受給者はわずかに減少している。なぜか、政府が生活保護ではなく、緊急小口融資や期限付き家賃補助に誘導し、結局借金地獄に突き落としたのだ。

 第Ⅱ部では、「マネーが狙われる」として、キャシュレス決済やデジタル給与の落とし穴を詳らかにし、キャシュレス先進国の中国や韓国の落とし穴としての多重債務と個人情報を元にした金融人事評価を指摘する。現金が亡くなれば、犯罪は減ると訴えるが、現金取引が減る一方で、デジタル詐欺が横行する事実は覆い隠されている。

 第Ⅲ部の「教育が狙われる」では、グーグル教室、オンライン教育というドル箱では、コロナ禍でパンドラの扉を開けてしまった世界各国。2023年3月の卒業式では誰かが「青春は密である」と発言して喝采を浴びたが、各個人がオンラインで学ぶより、群れて学ぶ事による教育成果、対人関係の育成なども指摘する。個人的に神経生理学を長く学び続けるものとして、視知覚認知の過程からも液晶画面で読むものは空間的な手がかりがつかみにくいため記憶に残りにくく、手に取ってページをめくって読み戻る、一見コスパやタイパの悪い作業こそ、学習・記憶にとって重要な固有受容核全体を通じた脳機能全体の学習・記憶過程であると確信する。柴田博仁さんの書籍「ペーパーレス時代の紙の価値を知る~読み書きメディアの認知科学」が詳細に検証していので参考にして欲しい。堤美果さんの教育論として「教育を改革するためには、決して焦ってはいけないこと。時間をかけてタネをまき、ゆっくり育てていく必要があることを」は納得の一説。

 私の座右の銘は「近現代史と組織論」であるが、堤美果氏は本書で、「近現代史を紐解くことは、過去と未来が一本の線でつながっていることを私たちに思い出させ、目の前にかかった霧を晴らしてくれる」の一説は、自分の学びが普遍的であることを確信するエールと受け取った。

 

堤美果:デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える.NHK出版新書,2021(8月30日第1刷発行,2021年12月25日第6刷発行購読)

 

www.nhk-book.co.jp

honto.jp

article9.hatenablog.com

article9.hatenablog.com

article9.hatenablog.com