浅学菲才の嘆息

小柳ちひろさんの「女たちのシベリア抑留」を読んで

 2022年12月9日に映画「ラーゲリ-より愛を込めて」が上映され、パートナーと鑑賞した。シベリア抑留の過酷さを今に伝える感動の作品であったが、残念ながら映画では女性が抑留されたことには触れられなかったように思う。

 本書は、2014年8月12日NHK「BSスペシャル 女たちのシベリア抑留」の取材をもとに書き下ろされた書籍である。シベリア抑留は、実は女性も抑留され、厳しい強制労働や生活環境で生死を彷徨った。ソ連のハバロフクスの近隣で旧満州・佳木斬(ジャムス)等で働いていた日赤などから派遣された戦時救護員や近隣の民間人から応召された女性たちがソ連の捕虜となり、過酷な労働や生活環境の中でもたくましく生き抜く様を、語りたがらない生存者にも挫けず丹念に取材を続けて証言や手記などの取材記録を丹念に読み解き、女性被害者名簿を作成するなど気が遠くなる取材による書籍となっている。女性がソ連満州にいたことで、性被害等の偏見から、社会でひっそり暮らし、過去を語りたがらない女性も少なくない。抑留中、ソ共の「アクチブ」となり、帰国を「天皇島への敵前上陸」と呼び、出迎える家族の手を振り切るようにして東京代々木の日本共産党本部に向かい入党した者もいた一方、「反動分子」とされた人々や、民主運動に否応なく巻き込まれ人々は、民主運動を牽引したアクチブへの批判を強めた。特に本書の最後に紹介される村上秋子の調査については、政治犯等が送られる極寒で最も劣悪な収容所で生き延び、日本への帰国を固辞し、ソ連で生涯を終えた女性の背景と経過の検証は息をのむ。

 ソ連の崩壊や日本軍の記録の隠滅などもあり、今なお全容解明には課題も残るシベリア抑留を調査した著者に敬意を表したい。

 捕虜の取扱に関する国際条約であるジュネーブ条約を知らない日本軍属や民間人は、時の軍政に言われるまま「生きて虜囚の辱めを受けるなかれ」と信じ込まされ、日本軍や民間人が捕虜になった場合の取り扱われ方を知らされなかったとする自己責任論で良いのかと考え込んでしまう。

 

小柳ちひろ:女たちのシベリア抑留.文集文庫,2022(9月10日第1刷発行購読)

2019年12月文芸春秋刊(単行本)

2014年8月12日NHK「BSスペシャル 女たちのシベリア抑留」

 

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