浅学菲才の嘆息

エイミー・C・エドモント(著)、野津智子(訳)の「恐れのない組織 『心理的安全性』が学習・イノベーション・成長をもたらす」を学習して

 本書は、第1部で心理的安全性に関する研究の歴史的経過を丹念に検証する。第2部では、職場の心理的安全性について多くの企業や実例から多面的・複眼で検証し、盛衰を検証する。心理的安全性をめぐる組織の研究は秀逸で、「回避できる失敗」、「危険な沈黙」、「フィアレスな職場(不安も恐れもない組織)」など、安全な企業・職場づくりにはリーダーの姿勢が最も重要であると指摘する。第3部では、フィアレスな組織を作る具体的な手法やリーダーのツールキットなどが紹介される。本書は訳本でありながら、日本の事例も含まれており、2011年に起きた東日本震災における福島第一原子力発電所の大惨事を検証し、福島第二原子力発電所の危機対応の実践も検証する。世界の企業が「知識集約型組織」がより効果的に活動できると指摘し、多職種協働の重要性こそが今の企業が重視すべき課題であると指摘している。企業や組織のトップの必読文献の1つであると実感した。

 

閑話休題

 昨年末に谷口真由美さんの「おっっさんの掟」を読んでいて、日本の人事・組織的問題の代表作として戸部良一ら「失敗の本質」と組織の改善課題例として本書「恐れない組織」が紹介された。滅多にないことだが、いわゆる「子文献」を読むきっかけになった。今も読み継がれる1984年初版の「失敗の本質」は旧帝国陸海軍の作戦において、ミッドウェー海戦ガダルカナルの全滅、レイテ沖海戦インパール作戦沖縄戦など重要な局面での敗北や失敗を「組織としての日本軍の失敗」ととらえ直し、現代の組織一般の教訓とした戦史の初めての社会科学的分析の書籍である。この書籍には同著者らによる続編があり、2005年に出版された「戦略の本質」では、独ソ戦におけるスターリングラード、中国内戦、朝鮮戦争ベトナム戦争などを組織論的に研究した書籍として「失敗との本質」の姉妹本として、両書籍を通読することがお薦めである。

 また、本書の「恐れない組織」の対極として、ジェヘリー・フェファ(著),村井彰子(訳):悪いヤツほど出世する,日経新聞出版社(日経ビジネス文庫),2018(3月1日第1刷発行,4月13日第3刷)を読むと、組織への支配欲、私物化、独裁が手に取るようにわかるので、対比して読むのもお薦めだろう。

 

エイミー・C・エドモント著,野津智子訳:恐れない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす.英治出版,2021(2月10日第1版第1刷発行,2022年11月10日代第1版第7刷発行購読)

 

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