浅学菲才の嘆息

岡野八代さんの「ケアの倫理-フェミニズムの政治思想」を読んで

 フェミニズムを深く研究し、広め、そして社会運動に参加する著者だからこそ、男性の理論で構築された社会のなかで、女性たちが自らの声で語り、自らの経験から編み出したフェミニズムの政治思想、ケアの倫理を重層的に論説する。ケアの倫理とは、女性たちの多くが家庭生活にまつわる営み、すなわちケアを一手に引き受けさせられてきた社会・政治状況を批判することから生まれた、人間、社会、そして政治についての考え方、判断の在り方である。第1章から第4章までは、アメリカ合衆国が中心となるが、第二次世界大戦後のフェミニズム運動と、その経験から生まれたフェミニズム思想・理論のなかでいかに、ケアの倫理という新しい道徳が編み出されてきたかを多面的・複眼で検証する。第5章の「誰も取り残されない社会へ」では、「ケアする民主主義-自己責任論との対決」「ケアする平和論-安全保障論との対決」「気候正義とケア-生産中心主義と対決」など、社会・政治活動に関する行動提起を指し示す。終章では、コロナ・パンデミック後のケアに満ちた民主主義社会の在り方を提起する。全体を通じて、重厚な研究書であるが故に、挫けそうになる気持ちになりながら、読了後の充実感は半端ない。

 

岡野八代:ケアの倫理-フェミニズムの政治思想.岩波新書,2024(1月19日第1刷発行,2月15日第2刷発行購読)

 

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