浅学菲才の嘆息

坂本龍一の「音楽は自由にする」を読んで

 1960年代生まれの我が青春のYMO。同級生達は、アイドルと横浜銀蝿全盛期を謳歌し、同級生の一部はオフコース小田和正に陶酔し、一部の変人扱いされた少数派のYMOフリークが私だった。生まれた頃から労働歌とうたごえの中で育ったにもかかわらず、なぜか電子音楽のYMOに引き込まれた私。自家用車では今時珍しいCD6連奏のカーオーディオで常時YMOのライブ音楽が流れていたのだから、自分の3人の子供たちも口ずさむ事になっても不思議ではない。

 今年の1月11日にYMOの高橋幸宏が逝去し、感傷に浸る最中の3月28日に坂本龍一の訃報に触れ、青春期がバックラッシュして意気消沈。坂本龍一氏は音楽だけでなく、環境や原発問題など、政治課題にも積極的に関わり、その発言が多くの国民に影響を与えた。

 本書は、2009年に発刊され、坂本龍一氏の逝去を期に文庫化され、発売日直前の書店の平積みから発見した出会いは必然か。坂本龍一の生い立ち、音楽への向き合いと造詣、社会に対する尖った関わりや行動力は、YMOの中でも屈折した表出を悔恨したことを赤裸々に綴っている。細野晴臣高橋幸宏矢野顕子渡辺香津美松武秀樹など、YMO初期のツアー・メンバーの才能や実績は、理論派の坂本龍一とは違う険しい山道を登頂した芸術集団ならではの才能を評価する。坂本龍一のクラッシックへの造詣と作曲家としての修業と知識の蓄積。読書や映画への深い向き合い、そして遊び呆ける私生活までもが、坂本龍一を巨匠へと誘った所以だろう。音楽家、役者、映画音楽家、社会活動家としての坂本龍一が自分史語りを読みながら、故人を偲ぶ読書となった。なお、本書は各章毎に、丁寧な語句説明が行われており、時代背景や何に刺激を受けたのかなど、さらに坂本龍一を時代背景から見る上でも楽しい書籍となっている。

 

坂本隆一:音楽を自由にする.新潮社,2023(5月1日発行購読,2009年2月新潮社より単行本発行)

 

ebook.shinchosha.co.jp

honto.jp