浅学菲才の嘆息

2021-01-01から1年間の記事一覧

キム・ジヘ著、伊怡景訳の「差別はたいてい悪意のない人がする-見えない排除に気づくための10章」を読んで

差別も特権も、ありふれているからこそ見えない、韓国で16万部のベストセラーが邦訳されました。 「自分は差別などしていない」本当にそうか。職場では以前から「権威勾配をなくし、平等な職種関係を構築しよう」と職場への周知を呼びかけているが、本当に職…

藤津亮太さんの「アニメと戦争」を読んで

アジア・太平洋戦争の戦時下の日本で、アニメは新聞やラジオと同様に戦意昂揚のプロパガンダを担い、「桃太郎海の神兵」などで戦争を描いた。この時代を生きた人びとは、戦時の「状況」を知り、出兵の見送りや空襲を「体験」した世代である。戦後復興を経て…

深沢潮さんの「翡翠色の海へうたう」を読んで

本作品は、2人の女性の現在と過去が交錯しながら、一本のストーリーに展開する。1人は小説の新人賞に挑戦し、取材のために沖縄に向かった派遣社員河合葉菜の現在進行形の物語。もう1人は、朝鮮で暮らし日本兵のお世話をする仕事と言われて沖縄に連れてこられ…

著者小林太郎さん、編者笠原十九司さん、吉田裕さんの「中国戦線、ある日本人兵士の日記 -1937年8月~1939年8月 侵略と加害の日常」を読んで

下級兵士である著者の小林太郎の従軍日記を基軸に、日中戦争史の歴史の研究を続ける笠原十九司氏と近現代史の研究を続ける吉田裕氏(東京空襲記念館館長)が編集し、解説する。1937年7月7日の盧溝橋事件以後の1937年に8月に応召され、1937年12月13日の南京陥…

ワタナベ・コウさんの「漫画 伊藤千代子の青春」を読んで

本書は、2005年に著者藤田廣登さんが学習の友社より出版した著書を元に、漫画家のワタナベ・コウさんが漫画にした作品である。 主人公の伊藤千代子は、歌人土屋文明の諏訪高女時代の教え子で、千代子の聡明さに将来を期待されていた。決して裕福でない生活の…

竹内一郎さんの「あなたはなぜ誤解されるのか 「私」を演出する技術」を読んで

劇作家・演出家の筆者は、前著「人は見た目が9割」で話題となり、今回はブラッシュアップして、スマホの普及やコロナ禍で「人の見た目」の変化も着目する。 育成場面で繰り返し引用される、連合艦隊司令長官・山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、さ…

ナディア・ムラド,ジェナ・クラジェスキ,吉井智津(訳)の「THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語」を読んで

アフガニスタンとイスラム国の問題がホットニュースで流れる中、なぜ多くの国民が自国アフガニスタンを離れようとするのか。イスラム国とは何か。 本書は、イラク北部にあるコーチョという小さな村に生まれ育った、女性ナディアの衝撃の体験を綴った作品であ…

澁谷知美さんの「日本の包茎 男の体の200年史」を読んで

包茎などを処置する「割礼」と呼ばれる儀式やしきたりは、世界中の民族・部族にあり、また男性に限らず女性も心身共に被害を受けている例も紹介されます。日本の包茎にまつわる200年の歴史的変遷を膨大な歴史的資料を元に解明していきます。 日本人の半数が…

早乙女勝元さんの「ゲルニカ 無差別爆撃とファシズムのはじまり」を読んで

アジア・太平洋戦争末期、日本は米軍からの無差別空襲を受け、原爆を投下された。しかし、日中戦争において日本軍が中国国内の重慶爆撃などの大規模無差別空襲を行ってきた事を知らない日本人も少なくない。 日本軍が中国に無差別空襲を行っていた時期、スペ…

木下武男さんの「労働組合とは何か」を読んで

国際的な労働運動、労働組合の歴史、そして日本の労働組合の歴史と課題が整理できた。 大衆運動としての労働組合運動と政治・政党の関わりの課題が認識できた。 日本の労働者は長時間労働や休日労働の課題、非正規労働者の増加など、貧困と格差が進む中で、…

志賀賢治さんの「広島平和記念資料館は問いかける」を読んで

広島平和資料館の歴史に関する知識が深まった。本書に触れられている通り、自身の知識不足から来る誤解も整理された。 コロナ禍で、移動は困難だが、将来的には是非、広島平和資料館にあしを運び、展示の内容の意味、目的、そして原爆の被害と平和について、…

朱野帰子さんの「わたし、定時で帰ります。ライジング」を読んで

1作品目は、盲従させられる労働者をインパール作戦の兵士と対比します。第2作のハイパーでは、盲従する労働者を忠臣蔵の大石内蔵助と対比し、また野球経験者の上意下達を「脳筋(脳みそまで筋肉)、トランス(異常興奮)、マウンティング(自分の優位性を固…

庭田杏珠×渡邉英徳(「記憶の解凍」プロジェクト)の「AIとカラー化した写真でよみがえる 戦前・戦争」を読んで

広島出身の庭田杏珠さん(東京大学学生)と渡邉英徳同大学教授の共著で、映画「この世界の片隅に」の片渕須直さんやアーサービナードさんらがプロジェクトに加わり、戦前・戦争と人びとの暮らしをAI(人口知能)でカラー化します。庭田さんは広島出身で、…

岡野八代さん訳・著「ケアするのは誰か? 新しい民主主義のかたちへ」を読んで

ケア労働者の視点から、ジェンダー平等を考え、ケアに満ちた社会を目指す政治理論入門書となっている。 第3章に「フォルブルの寓話-競走とケア」では、 A国は、走れるものは、全力で走れ B国は、性的分業 C国は、共にケアする/ケアと共に A国は、極端…

詫摩佳代さんの「人類と病 国際政治から見る感染症と健康格差」を読んで

2021年4月現在、新型コロナウイルス感染が確認され1年半が過ぎ、第4波のまっただ中。本書は、2015年に企画が始まり、著者のワークライフバランスもあり、新型コロナウイルス感染第1波の渦中に発売された。 国際政治を専攻する筆者が、国際保険分野の専門家と…

山崎ナオコーラさんの「肉体のジェンダーを笑うな」を読んで

ジェンダー平等に関して、純文学4作品で綴る本作品には不思議な魅力があります。第1作目の「父乳の夢」は、医療の進歩によって父の胸からも乳を出すことが可能になったらとした日常。母乳神話、出産後の母親の苦労や育児について、父親の育児参加について会…

笠原十九司さんの「増補 南京事件論争史 日本人は史実をどう認識してきたか」を読んで

1937年12月13日の前後の起きた南京事件は、国際的に、国内でも、また防衛省のホームページにおいても、明白な事実としているにもかかわらず、否定派、もしくは歴史修正主義者によって、不毛で熾烈な論争が繰り広げられてきた。否定派の論拠、問題点とトリッ…

シオリーヌ(大貫詩織)さんの「CHOICE 自分で選びとるための『性』の知識」を読んで

助産師の資格を持つ著者は、包括的性教育についてできるだけ平易な言葉や図・写真を用いて、中高生にも理解しやすく解説する。性の話しは恥ずかしい、いやらしいなど、性の話しをタブー視せず、もっと気軽にオープンにと解説を進める。性の仕組み、生理、妊…

牧野雅子さんの「痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学」を読んで

オリンピック組織委員会を巡り、女性蔑視の発言が「これまで黙らされてきた側からのレジスタント」として社会問題化し、マグマのように吹き出している。「女性が入っている理事会は時間がかかる」「わきまえない」、首相の息子の接待問題では「飲み会は断ら…

玉川寛治さんの「飯島喜美の不屈の青春」を読んで

玉川寛治さんの丹念な歴史検証と熱意に、敬意を込めて。 飯島喜美は、1912年に千葉県の貧しい家庭に産まれ、尋常小学校卒業後の12歳から女中奉公に出され、15歳頃より東京モスリン紡績株式会社亀戸工場女工となる。週休1日、12時間勤務の2交代制という劣悪な…

清田隆之さんの「さよなら、俺たち」を読んで

近年、フェミニズム、#MeToo、#KuKuu、など、ジェンダー平等が大波となって社会現象になっているが、男性からの発信はあまり多くない。著者は、自身の成長過程での違和感をふり返り、桃山商事の活動を通じて女性たちとの対話、ニュースやカルチャー、多くの…

太田啓子さんの「これからの男の子たちへ 『男らしさ』から自由になるためのレッスン」を読んで

子供の頃から「男らしさ」が求められ、男性の優越感、特権的待遇にあぐらをかいてこなかったか。逆に、「男らしさ」の呪縛に押し潰され、部活や職場で苦しい思いをしてこなかったか。本書は、世界の中でジェンダーギャップ指数が極めて低い日本の現状を踏ま…

佐々木憲昭さんの「日本の支配者」を読んで

闇の支配者、陰の支配者はいるのか。総理大臣や閣僚は、本当に自分の政治信念で発言しているのか。近年の総理大臣や閣僚は、官僚のシナリオを読むだけで、自らの語彙表現で国民に対話をしない。マスコミも歯切れが悪い。誰に気を遣い、忖度しているのか。 本…

藤田廣登さんの増補新版「時代の証言者 伊藤千代子」を読んで

随分前に大正から昭和初期にかけて、若い女性達が命がけで自由と民主主義のために闘った話しを聞いたことがある。男性で言えば、治安維持法に反対し刺殺された山本宣治代議士や治安維持法違反で逮捕され、拷問死したプロレタリア作家の小林多喜二とういと重…

中島大輔さんの「プロ野球 FA宣言の闇」を読んで

著者の中島大輔氏の前著「野球消滅(新潮新書)」で指摘している通り、野球は競技人口の減少に歯止めがかからない。その要因は一概には言えないが、「野球はお金がかかる」、「お茶当番など親の負担が大変」などの問題が指摘されている。一方で、指導者側の…