浅学菲才の嘆息

平野卿子さんの「女ことばってなんなのかしら?『性別の美学』の日本語」を読んで

ドイツ語翻訳者の著者が、翻訳するときに悩む日本語の性差について、西洋語と比較して、それまで気づかなかった日本語の特性について興味深く綴ります。日本語の曖昧な表現は、時として女性語が用いられ、またコンフリクトを避ける表現としても活用される言…

NHKスペシャル取材班の「ビルマ 絶望の戦場」を読んで

「白骨街道」と言われおよそ3万の死者を出したインパール作戦。しかしその後の「撤退戦」で実に10万人を超える命が奪われたことはあまり知られていない。 前作の2017年に「戦慄の記録インパール」を取材し、NHKで放送、書籍化された続編と言える「ビルマ…

力武晴紀さんの「ザボンよ、たわわに実れ 民主医療に尽くした金高満すゑの半生」を読んで

戦前の民主医療・無産者診療所医療に尽力した金高満すゑ。1908年長崎県佐世保で生まれ育つも、小学校2年生で母を亡くし、2年後には父も逝去する。満すゑは佐治家の養女となり、新聞・書物などあらゆるものを読み尽くす読書家で、学力を発揮して佐世保高等女…

平井和子さんの「占領期の女性たちー日本と満州の性暴力・性売買『親密な交際』」を読んで

著者の平井和子氏は、一橋大学名誉教授の吉田裕氏のゼミ生を経験し、上野千鶴子氏や蘭信三氏と共に著書「戦争と性暴力の比較史へ向けて(岩波書店)」で協同研究を行った一人である。それ故に、近現代史を多面的に研究しつつ、戦時性暴力やジェンダー社会科…

藤田早苗さんの「武器としての国際人権-日本の貧困・報道・差別」を読んで

2023年11月の会議で、12月に本書に関する講演を聴講できることを知り、慌てて取り寄せて購読した。聴講はオンラインかと思ったが、対面にて聴講させて頂いた。著者も講演の冒頭で触れていたが、「武器」としての国際人権の「武器」に違和感持つことについて…

高橋弘希さんの「叩く」を読んで

本作は、短編5編をまとめた書籍である。書名の「叩く」とは、第1編の主人公が「タタキ」となり金銭を盗む刹那、「タタキ」の紹介者に裏切られて殴打され、意識が戻るところからはじまる。面が割れ、このままでは捕まる。いっそのこと住人を殺害するか逡巡す…

山田朗さんの「昭和天皇の戦争認識:『拝謁記』を中心に」を読んで

昭和天皇の戦争責任論は、今も二分される。少なくとも、1941年12月8日の「開戦の詔書」で昭和天皇が戦争開始を聖断し、1945年8月14日「終戦の詔書」で終戦(敗戦)を聖断している点からすれば、天皇の最終判断で対英米戦争の始めと終わりを決断しており、戦…

市川沙央さんの「ハンチバック」を読んで

某新聞の著者取材記事を読んで興味が湧き、珍しく書店での購読となった。第128回文学界新人賞を受賞したデビュー作で、第168回芥川賞を受賞している。サクッと読んだつもりが、読みにくい漢字や流れを読み飛ばしてしまい、消化不良となり、インターネットで…

染谷一さんの「ギャンブル依存-日本人はなぜ、その沼にはまり込むのか」を読んで

アメリカの精神医学会(APA)の精神疾患診断分類、「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」には、2013年から「ギャンブル障害」が掲載され、正解保健機関(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)では、すでに「病的賭博」として分類されてきた。…

深沢潮さんの「李の花は散っても」を読んで

本作品は、時代背景として元号では大正時代、西暦では1910年に朝鮮併合を行ったあとの日本と朝鮮の歴史について世界史を俯瞰しつつ2人の女性の生涯を丁寧に描く。一人の女性は、朝鮮王朝に嫁いだ日本の皇族の方子。日朝融和の象徴としての政略結婚に五里霧中…

古屋星斗さんの「ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由」を読んで

昔から「今の若いものんは」と先輩達が嘆いていたが、今も昔も「今の若者」の対応と育成には苦慮する。社会背景や生活歴の違いも大きく関与するだろうが、2020年代の若者の特徴を、リクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗氏が、統計資料等も含めて検…

映画「こんにちは、母さん」を鑑賞して

映画「こんにちは、母さん」を鑑賞した。冒頭、東京駅や東京スカイツリーなど超近代化した風景と対照的な、下町の風情が今も息づいている東京を巨匠が見せる。 各キャストの心情、喜怒哀楽、ときめきと落胆、山田監督らしい人間味を前面に押し出した展開に、…

保坂正康さんの「歴史の定説を破る-あの戦争は『勝ち』だった」を読んで

黒船来航で、江戸幕府が倒れて大政奉還し、明治政府が樹立されるも外国からの不平等条約で経済困窮に喘ぐ日本。戊辰戦争や西南戦争などの内戦を克服し、欧米列強並みに振る舞おうとして背伸びするが限度がある。歴史では、日清・日露の両戦役に勝利したとさ…

三浦ゆえさん企画・構成の「50歳からの性教育」を読んで

ライターの三浦ゆえ氏が企画・構成を立案し、村瀬幸浩さんをスーパーバイザーとして、著者5人の各テーマの執筆と村瀬幸浩さんと田嶋陽子さんの対談である。更年期の基礎知識と向き合い方。思い込みによるセックスの誤解解消の気づき。パートナーシップによる…

映画「福田村事件」を鑑賞して

2023年9月1日は関東大震災から100年。新聞やニュースで、様々な記事が紹介されているが、2023年9月4日にNHKで放映された映像の世紀バタフライエフェクト「関東大震災ー復興から太平洋戦争への18年」では、関東大震災当時の時代背景、震災の悲惨さ、そして…

水生大海さんの「マザー/コンプレックス」を読んで

痴漢事件をめぐる、3人とその家族の人間模様。水生大海さんらしい次々に起きる展開に一気に引き込まれる。痴漢事件をめぐる被害者、加害者と母親の人間模様。犯罪かえん罪か。3人3様に母親の思いの強さや支配欲が詳らかになり、その子供たちや身籠もる家族の…

永尾広久さんの「八路軍(パーロ)とともに」を読んで

近年、NHKスペシャルなどで、戦時中の日記、音声記録等のエゴドキュメントで戦時中を振り返る番組が放映される。昭和天皇をめぐっては、戦後の初代宮内庁長官の田島道治の拝謁記、戦前、戦中の侍従長を務めた百武三郎日記、戦中の宮内省御用掛の松田道一…

タブロイド判「日本共産党の百年」を読んで

日本共産党創立101年にあたって、2023年10月5日に成書発売の前段としてタブロイド判「日本共産党百年」を購読した。タブロイド判といえ、57ページの労作であり、結党時の時代背景や治安維持法下での困難な時代を経た戦前の壮絶な闘い。戦後の民主主義回復の…

岡野八代氏他「日本は本当に戦争に備えるのですか?-虚構の『有事』と真のリスク」を読んで

本書は、2023年1月19日に「いま、リアリズムとは何か-安保三文書を議論する」というタイトルで、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究会が主催するグローバル・ジャスティセミナー第67回として開催されたオンラインイベントを元に、編集された書籍…

映画「我が青春つきるとも-伊藤千代子の生涯-」を鑑賞して

伊藤千代子は長野県に生まれるも、両親との死別など幼少期から不遇な体験をするも、親族達に育てられ、成績も優秀で進学を望む。しかし、経済的問題もあり、尋常小学校で教員をしながら学費を貯め、また親族の学費援助もあり、東京女子大へ進学し、社研の活…

医療生協さいたま看護部本編集委員会編著:続地域とともに産み・育み・看とる-コロナ禍でいのちと向き合うー」を読んで

私の所属する団体より献本頂き、早速拝読させて頂いた。最近、田中ひかるさんの「明治のナイチンゲール 大関和物語」を読んでいたこともあり、看護師の歴史を含めて、コロナ禍で奮闘した医療生協さいたまの看護職集団の事例を大切にする姿勢、さらに事例を丹…

坂本貴志さんの「ほんとうの老後『小さな仕事』が日本社会を救う」を読んで

数年前に老後資金は2,000万円などが話題になり、「老後資金がたりません」などの映画が作られ、定年後の老後を心配する声が絶えない。バブル崩壊以降の経済の停滞による可処分所得の経年的な減少、年金支給額の減額に物価高騰による生活費の高騰が追い打ちを…

映画「君たちはどう生きるか」を鑑賞して

映画「君たちはどう生きるか」を鑑賞した。過去の宮崎駿のアニメや映画、スタジオジブリ作品の一コマ一コマが走馬灯の様に小気味よく流れると感じたのは私だけか。 静と動、柔と剛、陰と陽、明と暗、に引き込まれ、展開が予想できずに引き込まれ、あっという…

植原亮太さんの「ルポ虐待サバイバー」を読んで

リハビリテーションの臨床に携わっていると障がいのみならず、個々の社会背景にぶつからざるを得ない。社会的弱者となる高齢者や小児を含む障がい児者の関わりは、障がい固有の問題だけでは解決しきれず、専門家の力も借りつつも、社会背景や生育歴、家族と…

倉沢愛子さん,松村高夫さんの「ワクチン開発と戦争犯罪 インドネシア破傷風事件の真相」を読んで

2021年夏、2週に渡ってNHKでインドネシアの破傷風ワクチン開発と現地ロームシャ(労務者)への人体実験や泰緬(たいめん/タイとベトナム)鉄道等への強制労働、そして戦地では帝国軍人がマラリアの特効薬キニーネを巡って、友軍衛生兵からキニーネを強奪…

小川たまかさんの「たまたま生まれてフィメール」を読んで

著者であり、ライターの小川たまかさんの書籍は、2018年出版の「『ほとんどない』ことにされている側から見た社会の話しを。」、2022年出版の「告発と呼ばれるものの周辺で」、に続く3冊目の読書となった。 性暴力の取材に取り組むライター小川たまかさんの…

水生大海さんの「最後のページをめくるまで」を読んで

著者の水生大海(みずきひろみ)さんの作品との出会いは、「社労士のヒナコ」シリーズ3部作で、作品を読んだと言うより労働法制について学ばせて頂いたのが正解かもしれない。職場の同僚にも紹介し、読んでもらって感想を出し合った。そのご縁で、本作品を読…

映画「雪道」を鑑賞して

映画「雪道」を鑑賞した。 私は、吉見義明氏らを含む多くの著書や資料を読んで「従軍慰安婦」は歴史の事実であり、なかったことにはできないという立場で映画を鑑賞した。 今回は韓国映画として制作されているが、日本人慰安婦も含めて、アジア・太平洋地域…

田中ひかるさんの「明治のナイチンゲール大関和(ちか)物語」を読んで

本書は明治期に看護婦の黎明期として活躍した大関和の伝記であり、日本の医療と看護を歴史的時代背景の中で広く捉え、看護婦養成制度の基礎などを学ぶ事ができる書籍である。明治に入って「金のために汚い仕事も厭(いと)わず、時には命まで差しだす賤業(…

三浦まりさんの「さらば、男性政治」を読んで

本書は、世界各国と比較して異常な「男性政治」の観点から、日本の政治構造に切り込み、なぜ性別均等な議会が実現しにくいのか、どのような道筋をつけるのかを論じた書籍である。また、国内外の比較、多様な文献や資料を縦横に駆使し、より客観的、科学的に…