浅学菲才の嘆息

書評

中島大輔さんの「山本由伸 常識を変える投球術」を読んで

2023年のWBCは日本中で大いに盛り上がり、大谷翔平らと同じ先発投手陣の一角を担った山本由伸。2021年、2022年シーズンでは、2年連続の投手四冠を達成、沢村賞と最優秀選手賞にも選ばれ、オリックスバファローズの日本一にも貢献した。2022年オフには推定…

有田芳生さん他「希望の共産党 期待をこめた提案」を読んで

あけび書房は、直近の2度の国政選挙の前後で、「市民と野党の共闘で政権交代を」や「市民と野党の共闘 未完の課題と希望」などを出版し、新自由主義と国家主義の自公政権に代わる新しい政治の流れを広げる発信をしてきました。今回は、立憲野党の中で、2022…

芝田英昭さんの「占領期の性暴力 戦時と平時の連続性から問う」を読んで

著者は、原発問題から社会保障、医療保険の研究から、本書のテーマ「占領期の性暴力」の研究に取り組んで書籍にとりまとめた。 1945年8月15日に帝国日本は敗戦し、国民は打ちひしがれていた、もしくは戦争が終わったことに安堵していた。ところが政府は、敗…

小柳ちひろさんの「女たちのシベリア抑留」を読んで

2022年12月9日に映画「ラーゲリ-より愛を込めて」が上映され、パートナーと鑑賞した。シベリア抑留の過酷さを今に伝える感動の作品であったが、残念ながら映画では女性が抑留されたことには触れられなかったように思う。 本書は、2014年8月12日NHK「BS…

伊藤詩織さんの「裸で泳ぐ」を読んで

私の認識の中では、著者の伊藤詩織さんは、実名・顔出しで性犯罪被害を告発し、また悪辣なネット上の誹謗中傷者と闘う孤高の闘士と思い込んでいた。しかし、本書で綴られる伊藤詩織さんは、自分の生い立ちをふり返り、自分に正直に、真っ直ぐに生きてきた高…

堤美果さん「ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?」を読んで

食料をめぐる世界市場の裏で、我々が想像もなし得ない事態が展開している。食料に関する歴史を紐解き、事実を丹念に拾い集め、各国の現場に入り人びとの証言と共に、食に関する現状が暴露される。「人口肉」は本当に地球を救い人間を健康にするのか。フード…

吉見義明さんの「草の根のファシズム 日本民衆の戦争体験」を読んで

私が知る研究者で著者の吉見義明氏は、1990年代の従軍「慰安婦」研究、2000年代の日本軍毒ガス戦という認識であったが、1980年代の初期作品となる本書では、民衆や大衆の日記や手記、聞き取りなど膨大な資料や調査を背景として、アジア太平洋戦争を見つめ直…

有田芳生氏、森田成也氏、木下ちがや氏、梶原渉氏の「日本共産党100年 理論と体験からの分析」を読んで

2022年7月15日に日本共産党は100周年を迎え、各種出版物が発行されている。その中でもひときわ重厚なのが、中北浩彌氏の「日本共産党『革命』を夢見た100年」であり、参考・引用文献の多彩さは、中公新書の真骨頂でもある。 本書は、中北宏彌氏の書籍を肯定…

浜田敬子さんの「男性中心企業の終焉」を読んで

ジェンダー後進国と併走するように経済停滞に喘ぐ日本。働き方、価値観、組織風土から脱却し、生き方や働きがいを企業・組織として見つめ直す。言易行難な課題を、多くの企業の実践例を踏まえて、ジェンダー問題と働き方を提言していきます。 著者は元AER…

三橋順子さんの「歴史の中の多様な『性』-日本とアジア 変幻するセクシャリティ」を読んで

横溝正史原作、市川崑監督で製作された1976年の映画「犬神家の一族」で、信州財界の大物犬神佐兵衛が、若いころ那須神社の神官野々宮大弐さんと「衆道の契り(男色関係)」を結ぶことが描かれ、同性愛の事を知った。当時は、車で後方から追突されると「御釜…

中村光博さんの「『駅の子』の闘い 戦争孤児たちの埋もれてきた戦後史」を読んで

戦争がおわってから闘わざるを得なかった戦争孤児の事を知ってほしい。1945年の本土空襲が激化した敗戦前夜から敗戦後にかけて、親類に頼ることが難しい空襲被害者たちは、駅舎や地下坑道を占拠し、雨風をしのがざるを得なかった。特に、両親を亡くした子供…

清水一行さんの「毒煙都市」を読んで

1932年7月7日に勃発した盧溝橋事件の直後の、9月25日にM市の弾薬や肥料等を作る化学工場で2度の爆発事故が起こり、黄白煙が市内に流れ込む。直後より近隣の子供たちを中心として消化器症状や咽頭痛を訴え、症状のある子どもを連れた親たちが開業医の元に殺…

中野信子さんの「サイコパス」を読んで

サイコパス(psychopathy)とは、もともと連続殺人犯などの反社会的な人格を説明するために開発された診断上の概念であり、日本では「精神病質」と訳されてきた。 著者は脳科学者であり、歴史的事例や経過を丹念に調査し、人格障害や発達障害などの精神疾患…

横山拓也さんの「わがままな選択」を読んで

大学の同級生で付き合い始め、ファミレスチェーン店の店長に就任した勢いで30歳の時に求婚した夫。大手の建設会社に入社し、ラジオのパーソナリティもこなす、会社で初の女性課長代理に昇進した妻。結婚は、子どもは作らず、2人で好きなことを全うしようとし…

土井善晴さんの「一汁一菜でよいと至るまで」を読んで

料理研究家の著者の生い立ち、料理との向き合い、フランスでの料理修業、日本の「味吉兆」で学んだこと、家庭料理への向き合い方など、料理研究家土井善晴氏のエッセイ。 一言で料理と言っても、民族、生活環境などにより、食材も違えば、調理方法や盛り付け…

林博史さんの「帝国主義国の軍隊と性 売春規制と軍用性的施設」を読んで

2022年9月29日、従軍慰安婦をテーマにした映画「主戦場」について、3年にわたる裁判は、同意なくインタビュー映像を使われたなどとして、米国人弁護士ケント・ギルバート氏ら5人が、ミキ・デザキ監督や配給会社「東風(東京)」に上映中止と損害賠償を求めた…

特定非営利活動法人コンシューマーズ京都監修の「老いる前の整理はじめます!暮らしと『物』のリアルフォトブック」を読んで

3年ほど前に職場に書籍の案内があり、「終活」も話題になっていたことから職場のみなさんと一緒に購入したが、積読になっていた。最近、長くつきあいのあった独居の方が自宅で孤独死され、身寄りは施設入所中の妹さんのみで、成年後見人制度を利用しているこ…

山崎雅弘さんの「歴史戦と思想戦-歴史問題の読み解き方」を読んで

書店の売り場に「中国・韓国の反日攻勢」「南京大虐殺の嘘」「慰安婦問題のデタラメ」「あの戦争は日本の侵略ではなかった」「自虐史観の洗脳からの脱却」などの歴史修正主義に関する書籍に目が行き、つい手を伸ばして購入したことはないだろうか?最近では…

佐藤優さんの「日本共産党の100年」を読んでの雑感

諸処批判もあるだろうが、雑感を備忘録としてブックメモを作成した。 日本共産党の創立100周年の節目に、著者は「はじめに」で、「日本共産党が組織として刊行した公式党史、綱領集などの資料、機関誌「しんぶん赤旗」、党幹部が実名で公刊した書籍を情報源…

高瀬隼子さんの「おいしいごはんが食べられますように」を読んで

職場に蔓延するパワハラやセクハラ、食にまつわる同調圧力、不公平な業務分担など、男性一人と女性二人の関係を軸に、転勤してきた男性と、仕事のできる女性の二人の視点と語り口で、3人の人間関係を紡いでいきます。職場内の会話と裏腹に心の声や嘆きは、言…

澁谷知美さん、清田隆之さん編集の「どうして男はそうなんだろう会議-いろいろ語り合って見えてきた『これからの男』のこと」を読んで

SNSで話題になっていて、編集者の澁谷知美さんの「日本の包茎-男たちの200年史(筑摩書房)」や清田隆之さんの「自慢話でも武勇伝でもない『一般男性』の話しから見えた生きづらさと男らしさのこと(扶桑社)」を読んでいたこともあり、共感することも多…

宮沢和史さんの「沖縄のことを聞かせてください」を読んで

パートナーがTHE BOOMのファンであったこともあり、ドライブで聴き、カラオケで歌っている曲である位の認識でしかなかった「島唄」。著者の宮沢和史さんが「島唄」を発表して30年の節目に本を書かれたことを新聞記事で見て購読した。 宮沢和史さんは…

平井美津子さんの「教科書と『慰安婦』問題 子供たちに歴史の事実を教え続ける」を読んで

日本の歴史の「真実」を正しく教えようと息巻く「歴史修正主義者」たちは、自分たちの支配欲を満たすため、そして日本の自虐史観からの脱却を目指して、歴史の改竄や歪曲を推し進める政府幕僚や自民党、維新の会、右派勢力など枚挙にいとまがない。 著者は、…

赤旗編集局(編)の「日本の侵略 加害と被害の真実-忘れないために」を読んで

「赤旗」記者が戦争体験者や専門家を訪ね、取材を重ねた書籍として、日本の侵略と加害の全体像を網羅的に、かつ平易にまとめた導入書となっている。 歴史として必要な体験者の事実の積み重ね、専門家による加害と被害の事実を国内外の情勢との関係で分析され…

赤瀬浩さんの「長崎丸山遊郭 江戸時代のワンダーランド」を読んで

先日1995年初版の吉見義明さんの「従軍慰安婦」を読んでいて、 陸軍では、上海派遣軍の岡村寧次参謀副長副参謀長が海軍の慰安所を参考にして、1932年3月から(慰安所の)設置あたった。その回想によれば、上海で日本軍人による強姦事件が発生したので、これ…

稲田豊史さんの「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーコンテンツ消費の現在形」を読んで

なぜ映画や映像を早送り再生しながら観る人がいるのか。なんのために。それで作品を味わったといえるのか?著者の疑問から、近年の若者たちの置かれている現状や背景から考察する。とにかく忙しい、時間がない、一方でスマホのSNSでは24時間縛り付けられ…

栗原俊雄さんの「東京大空襲の戦後史」を読んで

一夜にして10万人の民間人が殺害された東京大空襲では、77年が経過した今でも被害に苦しむ多くの人たちがいる。社会全体の無知や無関心、偏見に苦しめられながらも、国に対して救済を求めて立ち上がった空襲被害者たちの闘いと、政府や司法、立法の不誠実な…

吉見義明さんの「従軍慰安婦」を読んで

アジア・太平洋戦争の敗戦記念日を前に、過去の過ちに向き合おうと、1995年に出版された吉見義明氏の従軍慰安婦を読んだ。 1991年12月、はじめて3人の韓国人元従軍慰安婦が、日本政府の謝罪と補償を求めて東京地裁に提訴し、日本人に衝撃をあたえた。しかし…

赤旗編集局編の「日韓の歴史をたどる-支配と抑圧、朝鮮蔑視観の実相」を読んで

本書は、しんぶん赤旗に2019年4月16日付~2021年1月13日付までに32回に渡り各時代の専門研究者が執筆したまとめである。当時、読み忘れた回も幾度となくあり、書籍として出版されないかと期待していたところ、絶妙のタイミングで出版された。がしかし、他に…

石川優実さんの「#KuToo(クートゥー)―靴から考える本気のフェミニズム」を読んで

石川優実さんを知ったのは、2021年11月30日に発売された著書「もう空気なんて読まない」を購読し、Twitterの#KuTooで靴と苦痛をかけた造語で一躍有名になり、自分の経験を元に、女性として生きていく過去の厳しい体験、そしてフェミニズムについて、縦横に語…