浅学菲才の嘆息

栗原俊雄さんの「東京大空襲の戦後史」を読んで

 一夜にして10万人の民間人が殺害された東京大空襲では、77年が経過した今でも被害に苦しむ多くの人たちがいる。社会全体の無知や無関心、偏見に苦しめられながらも、国に対して救済を求めて立ち上がった空襲被害者たちの闘いと、政府や司法、立法の不誠実な対応を検証しながら、戦後の空襲被害者への対応を問いかける。

 戦後、空襲被害者への補償を行わずに、米軍の作戦変更による無差別爆撃へ作戦変更を行ったカーチス・ルメイに、日本政府は1964年、「勲一等旭日大綬章」を送った。受賞理由は「航空自衛隊の育成ならびに日米両国の親善関係に終始高研的な努力と積極的な熱意をもって尽力した」であり、日本人被害者や遺族が「鬼畜」「皆殺しのルメイ」と呼んだ将軍に対してである。

 日本は敗戦までの数年間、「戦時災害」として被害者と遺族に十分とは言えないまでも補償を行っていた。しかし、GHQのクレーマーは、「日本の軍人恩給制度は世界に類例を見ない悪辣きわまるもの」との理由で保障制度を廃止させた。その後、被害者「受任論」を強要し、一方で軍人恩給を復活させた。元軍人や軍属と遺族に対して、日本政府が60年以上に及び支給してきたのは累計60兆円。自民党員を含む超党派で取り組まれてきた特別給付金の要求額は1人1回切りの50万円、予算は30億円足らずであり、年金ではないにもかかわらず、政府は自民党を中心に立法化を拒み続けている。戦後補償問題で、政府側が民間人への保障を拒む際に主張する「雇用者責任論」である。軍人・軍属は政府が雇用していた。だから被害には補償する。しかし民間人は雇用していなかった。だから保障の義務もない、という言い分だ。日本国家の全体主義軍国主義に振り回された民間人空襲被害への速やかな救済を願う。

 

栗原俊雄:東京大空襲の戦後史.岩波書店,2022(2月18日第1刷発行購読)

 

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