浅学菲才の嘆息

加藤哲朗さんと小河孝さんの共著「731部隊と100部隊 知られざる人獣共通感染症研究部隊」を読んで

 防疫給水部・731部隊研究者一人である加藤哲郎氏が、軍馬防疫廠・100部隊の研究者で獣医学博士の小河孝氏と連携して、本著が出版された。

 明治維新による富国強兵の課題は、兵隊だけではなく、物資輸送等を目的とした軍馬の大量補充と体躯の大型化、馬鼻疽菌等の防疫が必要となり、軍馬防疫廠として100部隊が誕生した。日中・日露の両戦役でも軍馬不足は深刻で、アジア太平洋戦争でも軍馬不足が続いた。資源に乏しい日本は、航空兵力にガソリンを注力し、兵士や物資輸送に関する機械化部隊の整備が遅れ、また日本が侵略した地域の交通インフラの未整備は、より軍馬の需要を高めた。100部隊と731部隊関係者の証言や米ソの記録、特にソビエトハバロフスク裁判録、新たに発掘された部隊留守名簿、関係者の残した手記・自伝等、膨大な資料を追跡、分析し、100部隊と731部隊が相互連携して、人獣防疫にとりくんだ事実を積み重ねる。満州では、鼻疽菌を川に散布する野外実験を実施し、実際に鼻疽菌に感染した羊・牛・馬を放す計画も詳らかにする。また、風船爆弾を用いて、牛疫ウイルスをアメリカに拡散し、乳牛にダメージを与える計画もあった。東条英機は、最終的に対米攻撃で、日本の田畑が焼かれ、食糧難になる事を恐れ、作戦を断念したとする。

 戦後の731部隊同様、100部隊幹部は連合軍の訴追を逃れ、獣医学等の要職に就く。コロナ禍で、人獣共通感染症を使った国際法違反の細菌戦を告発する意義は何か。小河氏は、人獣共通感染症の世界的広がり、生物多様性の損失、地球温暖化などで、「ヒトと動物の健康と環境の健全性は一つ」というワンヘルスの考えが重要だと強調する。

 

加藤哲朗,小河孝:731部隊と100部隊 知られざる人獣共通感染症研究部隊.花伝社,2022(8月10日初版第1冊発行購読)

 

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