浅学菲才の嘆息

土井善晴さんの「一汁一菜でよいと至るまで」を読んで

 料理研究家の著者の生い立ち、料理との向き合い、フランスでの料理修業、日本の「味吉兆」で学んだこと、家庭料理への向き合い方など、料理研究家土井善晴氏のエッセイ。

 一言で料理と言っても、民族、生活環境などにより、食材も違えば、調理方法や盛り付け、食器、調理道具も違う。調理する側と食す側の両面から、多様な提案をされるのが、押しつけでなくスーッと心に入ってきます。

 レストランや料亭で食べる料理と家庭料理は違う。時間に手間、食材など枚挙に暇がない。しかし、家庭では家族の要望や暗黙知があり肩肘張って、家庭料理は「~ねばならない」と暗黙の同僚圧力に押し潰されていないか。一汁一菜に「愛と栄養」を注ぎ込めば、出汁いらずでも食材からしっかり出汁が出ることに気づく。早速、化学調味料や過分な出汁で味を誤魔化してきた調理を反省し、楽しくおいしい料理を心がけよう。

 

閑話休題①家庭料理と料理屋

魯山人は「料理芝居」という随筆に、「家庭料理は料理というものにおける真実の人生であり、料理屋の料理は見せかけだけの芝居だということである」として、その違いを明らかにしています。

 

閑話休題②味噌汁

土井善晴氏は、味噌汁はもっと自由であって良いと提案される。唐揚げの味噌汁もあり。

料理教室の生徒から毎度「○○を入れてもいいんですか」と確認されます。味噌汁に入れたくないものはあっても、味噌汁に入れていけないものなんてありません。それが味噌汁の凄さです。著者も日々、味噌や味噌汁の万能には驚いています。

となんて自由な発想。

 結婚するまで料理をすることのなかった私は、パートナーや子供たちの食事を作る必要に迫られて様々食材を使った味噌汁に挑戦したが、食材の組み合わせがイマイチの事も数多く経験し、結局いくつかのパターンに落ちつくことになった。大根と南関あげ、豆腐とわかめと南関あげ、じゃが芋と玉葱と南関あげ、などなど。必需品なのは「南関あげ」、これ一つで風味がよくなるので、我が家の必需品である。逆に、万能ネギを使わないのも我が家流なのだろう。パートナーは、専ら豚肉とほうれん草の味噌汁がお気に入り。また、私が味噌汁を作る場合が多く、中華スープや溶き卵スープなど、調理のバリエーションを変えてくれて、二人で分担することでレパートリーは2~3倍になったことだろう。

 10数年前に、子供たちが小学校の授業で味噌汁を作ってきたと話していた。先生によると、「あげと長ネギの細切りが味噌汁の基本」と教えられたと言っていた。その刹那、ものすごい違和感を憶えたが、担任の先生の手前、批判もせず飲み込んだが、我が家では学校で教えられた基本と違う味噌汁が日々提供されていることで、子どもなりに感じたこともあったのではないだろうか。

 

閑話休題③米

国を挙げての国民の栄養向上政策の努力は実り、昭和50年(1975)年ごろには、ごはんを中心とした日本型食生活が完成したと喜ぶようになりました。しかし、その束の間、外食の楽しみを知ると、一気に肉食が進み、油脂(エネルギー)の取り過ぎに偏り、生活習慣病、さらにメタボが表れ、現代に至ります。

とまとめます。

 コロナ禍が追い打ちをかけるように宅配料理が跋扈(ばっこ)し、地域の食堂は衰退し、テイクアウトによるジャンクフードが軒並み業績を伸ばしているのを見るにつけ、コロナ禍で食生活を送ったZ世代の将来の健康状態や病気が気になるのは私だけだろうか。一方で、学校の休校で、唯一の栄養源であった給食が途絶えた子供たちもいて、体重減少の著しい子供たちが一定の割合でいることも気になる。貧困と格差が食事・栄養、教育に表れることを警鐘事例として捉えておくことが必要だろう。どこかの国の首相が「子ども食堂」に行ったことをさも自慢げに誇っていたが、「子ども食堂」が重要なのではなく、子供たちを生み・育てる親や保護者の所得増が必要だとは認識していないようだ。

 もう一つ、佐藤洋一郎さんが中公新書で著した「米の日本史―稲作伝来、軍事物資から和食文化まで(2022年2月18日発売)」の中でも、やはり1970年代に入って日本人はやっとお腹いっぱいご飯(米)を食べることができたと指摘しており、日本人と米のかかわりを再認識できた。同時にロシアのウクライナ侵攻で、小麦が高騰し、パンや麺類が軒並み値上がりする中で、日本国民は生活防衛の観点から米への原点回帰が起きていることにも注意が必要なのだろう。かつて第1次世界大戦の帝国海軍は、兵隊に米中心の食事を提供したが、深刻な脚気・栄養障害に悩まされ、戦意・戦力が大いに低下した。あらためて米の炭水化物だけでは栄養素を賄えないことを認識したわけで、米への原点回帰が栄養の偏りより、脚気が再流行しないか心配しているのは、過剰反応であろうか?

 

土井善晴:一汁一菜でよいと至るまで.新潮新書,2022(5月20日発行,2022年9月30日7冊購読)

 

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