浅学菲才の嘆息

書評

石川優実さんの「#KuToo(クートゥー)―靴から考える本気のフェミニズム」を読んで

石川優実さんを知ったのは、2021年11月30日に発売された著書「もう空気なんて読まない」を購読し、Twitterの#KuTooで靴と苦痛をかけた造語で一躍有名になり、自分の経験を元に、女性として生きていく過去の厳しい体験、そしてフェミニズムについて、縦横に語…

澤地久枝さんの「妻たちの二・二六事件ー新装版」を読んで

2019年8月15日、NHK放送で「全貌二・二六事件~最高機密文書で迫る~」が放送された。従来は、蹶起した陸軍側の資料を元に二・二六事件が語られ、書籍が発行されてきたが、今回は海軍側の極秘文書が見つかり、事件は複眼的な史実を詳細に伝える放送となっ…

霧山昴さんの「小説・弁護士のしごと-地域に根差す日々」を読んで

良く知っている弁護士さんが、自著3冊目の書籍を献本頂き、ありがたく読ませて頂いた。安倍元首相の暗殺を巡っては、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による過去の霊感商法や合同結婚式などの問題が再燃している。本書では、当時の旧統一教会による霊感商…

高麗博物館朝鮮女性史研究会(編)の「朝鮮料理店・産業『慰安婦』と朝鮮の女性たち」を読んで

1991年、韓国で金学順ハルモニが日本軍「慰安婦」の体験者として証言したことから、戦後46年を経てようやく日本の人々に「慰安婦」問題が認識されるようになった。以降、「従軍慰安婦」問題の第一人者として吉見義明氏らが精力的に研究を進め、軍の強制性の…

武井彩佳さんの「歴史修正主義 ヒットラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで」を読んで

「アウシュビッツにガス室はなかった」「南京事件は捏造」「慰安婦はみんな職業的な娼婦」といった話しを耳にしたことがあるだろうか?歴史的な事実の全面的な否定を試みたり、意図的に矮小化したり、一側面を誇張したり、何らかの意図で歴史を書き換えよう…

吉中丈志さん編集の「七三一部隊と大学」を読んで

歴史修正主義者の中には「731部隊の虚構」など、731部隊はなかったと声高に発信する人がいる中で、2017年にNHKの一連の番組として放送され、新たに入手したハバロフクス裁判の音声データは決定的証拠となった。生物・化学兵器による人体実験は白日のもの…

松岡哲平さんの「沖縄と核」を読んで

2017年9月10日に放送されたNHKスペシャル「スクープドキュメント 沖縄と核」を録画し、繰り返し視聴して沖縄と核の問題を何度も考えてきた。2019年に本書が出版されたが、繰り返し録画を見てきたこともあり、積読して3年が経過して、沖縄本土復帰50年の節…

能島龍三さんの「八月の遺書 能島龍三短編小説集」を読んで

戦争の作品では、戦闘シーンは多く描かれ、戦争に組み入れられた兵士、軍属の心情は常に定式化した「護国」「天皇陛下万歳」など画一化した語彙が列ぶ。本書では、兵士や軍関係者の心情が、嗅覚なども含めた五感を刺激する表現で迫ってくる。南京虐殺、特攻…

牛島貞満さんの「首里城地下 第32軍司令部壕」を読んで

アジア・太平洋戦争末期の沖縄県首里城地下には、第32軍司令部壕が縦横に構築され日本本土防衛の時間稼ぎとして、頑強に抵抗した。第32軍司令長官牛島満中将の孫にあたる、元教員の牛島貞満は、祖父の軌跡と同時に沖縄戦の惨状を追い続け、そして戦争の愚か…

中央公論新社=編の「少女たちの戦争」を読んで

昨年の2021年は、対米英を中心とした1941年12月8日の太平洋戦争開戦から80年の節目の年にあたり、中央公論社新書編集で女性27名のエッセイが発行された。最年長は、開戦時19歳だった故・瀬戸内寂聴氏、最年少は3歳の故・佐野洋子氏。非日常が中心となった戦…

小川たまかさんの「告発と呼ばれるものの周辺で」を読んで

前作『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話しを。』から4年が経過し、性暴力被害、年齢差別、ジェンダー格差、など、多くの人がフタをする問題を取材し、発信し、声をあげるライター小川たまかさん。本書は、緻密に、そして多面的に調査し、…

逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」を読んで

2月にウクライナ問題が勃発した直後、読書友達から強く薦められ購読した。第11回アガサクリスティ賞受賞、読み終わる頃に本屋大賞受賞と、多くの読者や私の心を掴んだ重厚な1冊。第2次世界大戦のソビエトにおいて、セラフィマは目の前でドイツ兵に家族を殺さ…

武田砂鉄さんの「マチズモを削り取れ」を読んで

本書のタイトル「マチズモ」とはスペイン語のマッチョ(男らしい男)が変化した言葉で、「男性優位主義」の事です。男性優位主義を削り取れ、男性側からの問題提起を行います。社会や生活のあらゆる場面でのマチズモが縦横に語られる。スポーツの場面では「…

常石敬一さんの「731部隊全史 石井機関と軍学産官共同体」を読んで

15年に渡るアジア・太平洋戦争の最中に暗躍した関東防疫給水部、いわゆる731部隊の人体実験により、3000人を超えると言われる中国人やロシア人などが凄惨な死を遂げた。ペスト菌やコレラ菌などの生物兵器の実験に供されて無残に殺された人。凍傷実験にて、手…

石川優実さんの「もう空気なんて読まない」を読んで

著者の石川優実さんについて、新聞のコラム欄の執筆やTwitterのハッシュタグ・#KuTooで有名になった人、その程度の知識しかなく、書籍名に気を引かれて目を通した。石川優実さんの人生史、生き方を包み隠さず紹介し、自身の考えを綴る言葉には、石川…

杉田俊介さんの「ジャパニメーションの成熟と喪失 宮崎駿とその子どもたち」を読んで

スタジオジブリや宮崎駿の映画作品を紐解き、ヒーロー、ヒロインとして描かれる作品が多かった初期作品。1990年代半ばの、近藤喜文監督の耳をすませばとの関わり、そして構想から紆余曲折の上完成した「生きろ」をキャッチコピーとしたもののけ姫を経て、宮…

川満彰さんの「沖縄戦の子供たち」を読んで

アジア・太平洋戦争の末期、1945年3月末から敗戦の1945年8月15日以降も続いた日本国内で唯一の地上戦となった沖縄。牛島満中将率いる第32軍、現地召集の民間人、そして、年端もいかない子供たちまでが、看護要員、鉄血勤皇隊や護郷隊などとして、斥候、通信…

宮良ルリさんの「私のひめゆり戦記」を読んで

1988年、就職した年に沖縄でのイベントに参加して、ガラビ壕(と記憶)、嘉手納基地の見える高台を見学し、記念講演では会場となったムーンビーチホテルのビーチにて、本書の作者「宮良(旧姓守下)ルリ」さんの講演を聴講した。1982年作の今井正監督の映画…

合同出版編集部の「わたしは黙らない~性暴力をなくす30の視点」を読んで

34名の個人・団体から構成される「#Metoo」の中心となった当事者たちや、長年にわたり第一線で性暴力被害を支援してきたアクティビスト、研究者らが、性暴力の現状やこれまでの動き、今後の展望などを30項目に渡ってまとめました。これまで沈黙を強いられ孤…

吉田裕さん編集の「戦争と軍隊の政治社会史」を読んで

本書は吉田裕氏が編集した論文集である。吉田裕氏は、2020年3月末に一橋大学退職を機に、その教えを受けたゼミ生が、吉田裕氏のこれまでの研究してきた「戦争と軍隊の政治社会史」の視点から、最新の研究成果を持ち寄り、退職を祝うために編纂された。吉田裕…

NHKスペシャル取材班の「少年ゲリラ兵の告白 陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊」を読んで

本書は、2015年に放送されたNHKスペシャル「アニメドキュメントあの日、僕らは戦場で~少年兵の告白~」の取材記録をあらためて書き起こした作品である。 沖縄戦では、鉄血勤皇隊やひめゆり学徒隊など、少年達が軍部に随伴して戦場に駆り出されているのは…

多田富雄先生の「寡黙なる巨人」を読んで

尊敬する経営事務幹部職員さんから「社会科学の目と構え」を学ぶ上で、参考になる1冊があるとの紹介を受け購読した。本来、人に薦められた本を読むことはほとんどないが、今回の3冊は全て紹介書籍であり、自分でも珍しいと思っている。 国際的な免疫学者であ…

高橋伸夫さんの「中国共産党の歴史」をよんで

年間500冊を読破する知りあいの弁護士さんから、「興味深い作品だから」と薦められて購読し、年始の2日間で読破したものの鈍器本並みに重厚な内容で大苦戦。 著者の高橋伸夫さんは、冒頭で断りを入れておられるが、親中でもなければ反中でもなく、中国共産党…

ディーリア・オーエンズさん著、友廣純さん訳の「ザリガニの鳴くところ」を読んで

年間500冊を読破する知りあいの弁護士さんから、「とても良くできた作品だから」と薦められて購読し、2日間で一気読みした作品に脱帽し、長い余韻に浸っている。 1969年代のアメリカノース・カロライナ州の湿地で男性の死体が発見され、捜査が開始される。一…

キム・ジヘ著、伊怡景訳の「差別はたいてい悪意のない人がする-見えない排除に気づくための10章」を読んで

差別も特権も、ありふれているからこそ見えない、韓国で16万部のベストセラーが邦訳されました。 「自分は差別などしていない」本当にそうか。職場では以前から「権威勾配をなくし、平等な職種関係を構築しよう」と職場への周知を呼びかけているが、本当に職…

藤津亮太さんの「アニメと戦争」を読んで

アジア・太平洋戦争の戦時下の日本で、アニメは新聞やラジオと同様に戦意昂揚のプロパガンダを担い、「桃太郎海の神兵」などで戦争を描いた。この時代を生きた人びとは、戦時の「状況」を知り、出兵の見送りや空襲を「体験」した世代である。戦後復興を経て…

深沢潮さんの「翡翠色の海へうたう」を読んで

本作品は、2人の女性の現在と過去が交錯しながら、一本のストーリーに展開する。1人は小説の新人賞に挑戦し、取材のために沖縄に向かった派遣社員河合葉菜の現在進行形の物語。もう1人は、朝鮮で暮らし日本兵のお世話をする仕事と言われて沖縄に連れてこられ…

著者小林太郎さん、編者笠原十九司さん、吉田裕さんの「中国戦線、ある日本人兵士の日記 -1937年8月~1939年8月 侵略と加害の日常」を読んで

下級兵士である著者の小林太郎の従軍日記を基軸に、日中戦争史の歴史の研究を続ける笠原十九司氏と近現代史の研究を続ける吉田裕氏(東京空襲記念館館長)が編集し、解説する。1937年7月7日の盧溝橋事件以後の1937年に8月に応召され、1937年12月13日の南京陥…

ワタナベ・コウさんの「漫画 伊藤千代子の青春」を読んで

本書は、2005年に著者藤田廣登さんが学習の友社より出版した著書を元に、漫画家のワタナベ・コウさんが漫画にした作品である。 主人公の伊藤千代子は、歌人土屋文明の諏訪高女時代の教え子で、千代子の聡明さに将来を期待されていた。決して裕福でない生活の…

竹内一郎さんの「あなたはなぜ誤解されるのか 「私」を演出する技術」を読んで

劇作家・演出家の筆者は、前著「人は見た目が9割」で話題となり、今回はブラッシュアップして、スマホの普及やコロナ禍で「人の見た目」の変化も着目する。 育成場面で繰り返し引用される、連合艦隊司令長官・山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、さ…