浅学菲才の嘆息

山崎雅弘さんの「歴史戦と思想戦-歴史問題の読み解き方」を読んで

 書店の売り場に「中国・韓国の反日攻勢」「南京大虐殺の嘘」「慰安婦問題のデタラメ」「あの戦争は日本の侵略ではなかった」「自虐史観の洗脳からの脱却」などの歴史修正主義に関する書籍に目が行き、つい手を伸ばして購入したことはないだろうか?最近では、安倍元総理の銃撃事件に端を発し、国葬問題や統一協会問題、東京五輪不正など綴じ蓋が弾けた様な報道に、歴史修正主義者と歴史や事実の積み重ねによる研究書籍など、両論の書籍を並べる書店をSNS等で多数見かけるようになり、読者の目が片方に向かないようになってきているのを肌で感じる。

 本書は、歴史修正主義者が「歴史戦」と称して、歴史の一部分をあたかも全体であるかのように見せかけるトリックの概要を解説し、その巧妙さを指摘する。例えば、南京大虐殺では、虐殺の事実の積み重ねが重要であるものを「虐殺された人数」への論点のすり替を行われている点を指摘する。アジア・太平洋戦争では、帝国陸軍は敗戦と同時に多くの書類を焼却・隠滅したために、正確な記録が無い中では明確に数値化できない点を巧妙に突いてくる。しかし、一方で最近になって軍の記録や個人の日記などが多数見つかり、またNHK等の番組で紹介されるようになり、事実の積み重ねと歴史の検証は続いている。この思想戦は、アジア・太平洋戦争中に開始され、戦後も続いている経過とトリックを丹念に追いかけ、歴史教科書や事実の積み重ねの重要性を伝え、ともすれば「非国民」=「反日」のレッテルのトリックも喝破する。作家保坂正康氏は、「自虐史観」から「自省史観」への転換を訴えるが、正に反省、自省、内省、猛省など、「自省史観」が重要な事を再確認した。また、学生を含めた社会人たちと共に歴史の積み重ねを学び、複眼で多面的に考える重要性を再認識した一冊となった。

 

山崎雅弘:歴史戦と思想戦-歴史問題の読み解き方.集英社新書,2019(5月22日第一刷発行購読)

 

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