浅学菲才の嘆息

ディーリア・オーエンズさん著、友廣純さん訳の「ザリガニの鳴くところ」を読んで

 年間500冊を読破する知りあいの弁護士さんから、「とても良くできた作品だから」と薦められて購読し、2日間で一気読みした作品に脱帽し、長い余韻に浸っている。

 1969年代のアメリカノース・カロライナ州の湿地で男性の死体が発見され、捜査が開始される。一方、1950年代に6歳で家族に見捨てられた「湿地の少女」カイヤは、湿地の小屋でたった1人生きていかなければならなかった。この2つの物語が交錯しながら、ストーリーは進んでいく。カイヤは「湿地の少女」と村人に蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしている。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を寄せるが、彼は進学でカイヤの元を去って行く。その後、村の裕福な少年チェイスが彼女に近づく。カイヤの成長と恋心、自然の摂理を叙情的に描写し、不審死事件事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へ。

 本編は、推理小説、少女の成長譚(はなし)、差別や環境問題を扱う社会派小説、動物行動学などが縦横に交錯し、物語が編み込まれる。美と醜、優しさと残酷を合わせ持つ野生、動物行動学に基づいた描写では、子を捨ててしまう母キツネ、傷を負った仲間にいっせいに襲いかかる七面鳥、偽りの愛のメッセージを送るホタル、交尾相手をむさぼり食うカマキリ。ときにグロテスクとさえ思える野生の本能は、野生動物だけが持つものではない。人間が立ち入らない自然豊かな「ザリガニの鳴くところ」、実は現実の世界と表裏一体ではないか。生と性についても考えさせられる1冊。

 

ディーリア・オーエンズ(著),友廣純(訳):ザリガニの鳴くところ.早川書房,2020(3月15日初版発行,2021年11月15日24版購入)

 

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