浅学菲才の嘆息

深沢潮さんの「翡翠色の海へうたう」を読んで

 本作品は、2人の女性の現在と過去が交錯しながら、一本のストーリーに展開する。1人は小説の新人賞に挑戦し、取材のために沖縄に向かった派遣社員河合葉菜の現在進行形の物語。もう1人は、朝鮮で暮らし日本兵のお世話をする仕事と言われて沖縄に連れてこられ慰安婦にされ、無理矢理日本名をつけられた「コハル」の戦中・戦後の物語。葉菜は沖縄の戦跡や当時を知る人の取材で、沖縄の朝鮮人慰安婦の歴史を深く知ることになる。一方の「ハルコ」は日本軍の「穴」にされ、沖縄戦に巻き込まれ、壕(ガマ・穴)の中でも、繰り返し「穴」にされる。逃げ惑う壕で一命を取り留めるも声を失い、沖縄住民に助けられ、戦後は赤線で働く女たちの子どもを預かるなど、沖縄の女たちの力になっていた。葉菜は、取材が進む中で、シェルターを運営する女性の母親が戦災孤児で助けてくれた人こそ「コハル」である事に結びつく。朝鮮人慰安婦、戦時性暴力、沖縄戦ジェンダーの問題など、非常に難しい問題を素晴らしいバランス感覚でコンパクトにまとめた至極の1冊。感涙。

 想像して欲しい「また男が部屋に来る。切符を受け取る。脚を広げる。男はサックをつけて入れる。事が済んで出ていく。消毒する。また男が部屋に来る。」の繰り返しの描写は正に、1995年の映画「きけわだつみの声」の1シーンであり、2020年にグラフィックノベルで綴った「草」の1シーンである。

 

深沢潮:翡翠色の海へうたう.KADOKAWA,2021(8月31日初版発行)

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