浅学菲才の嘆息

吉中丈志さん編集の「七三一部隊と大学」を読んで

 歴史修正主義者の中には「731部隊の虚構」など、731部隊はなかったと声高に発信する人がいる中で、2017年にNHKの一連の番組として放送され、新たに入手したハバロフクス裁判の音声データは決定的証拠となった。生物・化学兵器による人体実験は白日のものとなり、1981年に出版された森村誠一の「悪魔の飽食」以来40年ぶりに脚光を浴びることになった。NHK放送から4年。2022年2月には常石敬一氏が「731部隊全史」を出版し、今回吉中丈志氏編集で「七三一部隊と大学」が出版され、偽らざる事実が次々に明らかになっているが、証拠隠滅や当事者の沈黙していることもあり、まだまだこれからの研究の分野でもある。京都大学を中心とした多くの医学者・技師が731部隊に派遣され、人体実験を行い、敗戦時に証拠隠滅を行い、上官とその家族から足早に帰国し、真実を語ることなく、実験結果を米軍に差し出すことで戦犯を逃れ、何事もなかったかの様に医学界や大学で医学や研究を続けた犯罪者たち。ドイツの人体実験では厳しい審判が下されたのに対して、日本やイタリアでは、有耶無耶のままに、断罪されない不条理。被害に遭われた多くの国々の方々に心が痛む。

 多くの研究者の詳細な研究の集大成として、膨大な研究を編集された吉中丈志氏を中心とする執筆者のみなさんに敬意を表し、今後更に研究が進み、加害と被害の全容が明らかになることを願ってやまない。

 

閑話休題

本書P35

日野原重明京都大学4年生の時(1936年)、授業で石井四郎から人体実験の映画を見せられたと語っているが、七三一部隊の非人道的な実験について、当時医師や医学生の間では広く知られていたと考えられる。

本書P179によると

極東軍最高司令部法務部は1947年6月6日にアメリ陸軍省戦犯部に次のように返信した

略~日本共産党は、「石井細菌戦部隊(BKA)」が奉天アメリカ人捕虜に対して人体実験を行い、同様の研究が東京と京都でも行われたと主張している。~略

1970年代の山本薩夫監督の映画「戦争と人間(第2部)」では、石井四郎が人体実験していた事実を映画に残している。

1981年の森村誠一の「悪魔の飽食」ではじめて多くの日本人が知ることになるが、「続・悪魔の飽食」の写真の一部に誤りがあり、このことが捏造説になり、国民の知識から大幅に欠落することになったのであろう。

慰安婦問題も含めて、歴史教科書への不当介入が続く中で、不十分ながら家永裁判の意義は大きいが、なおも歴史教科書への介入により、歴史の真実が適切に伝えられていない事への不安はつのる。「知」の探求と歴史を正しく認識する事が重要だらう。

 

吉中丈志編:七三一部隊と大学.京都大学学術出版会,2022(4月10日初版第一冊発行購読)

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