浅学菲才の嘆息

澤地久枝さんの「妻たちの二・二六事件ー新装版」を読んで

 2019年8月15日、NHK放送で「全貌二・二六事件~最高機密文書で迫る~」が放送された。従来は、蹶起した陸軍側の資料を元に二・二六事件が語られ、書籍が発行されてきたが、今回は海軍側の極秘文書が見つかり、事件は複眼的な史実を詳細に伝える放送となった。1936年2月26日、首都・東京の中枢で首相や大臣が襲撃された、近代日本最大の軍事クーデター「二・二六事件」。これまで、事件に関する主な公的記録は、完全非公開で「暗黒裁判」と言われた陸軍の軍事裁判資料とされ、事件をリアルタイムで記録した1次資料はなく、多くが謎とされてた。事件から83年が経ち、見つかった「極秘文書」によって、青年将校達の反乱と、その鎮圧にいたる「4日間」の詳細が明らかとなった。

 本書は、二・二六事件に関わった青年将校達の妻や家族に焦点をあて、五味川純平の大著「戦争と人間」の調査経験を元に、筆者が1972年に著した最初の作品である。蹶起した逆賊の妻として、わずかな結婚生活と事件後の辛い生活、子育てを行った妻たちの思いが綴られる。人知れず事件後を生きた妻たち、著者のインタビューに戸惑い、断る妻たち。蹶起した青年将校達の手記や手紙が物語るものは何か。1928年の張作霖爆殺事件、1936年の柳条湖事件で泥沼の日中15年戦争に突入し、1937年の五・一五事件を経て、1936年の二・二六事件で軍部の台頭を決定づけ、、1937年の盧溝橋事件、1941年の対米英戦争アジア・太平洋戦争に突入した全体主義軍国主義国家日本。

 歴史を複眼で捕らえ、事実を積み重ねる重要性と共に、著者澤地久枝さんのその後の平和への思いが、女性ならでは視点で綴られる重みは大きい。重版され読み続けられる書籍の重みを噛みしめた。

 

澤地久枝:妻たちの二・二六事件ー新装版.中央公論社,1975(2月10日初版発行,2017年12月25日改版発行,2921年4月5日改版2冊発行)

 

www.chuko.co.jp

 

honto.jp