浅学菲才の嘆息

杉田俊介さんの「ジャパニメーションの成熟と喪失 宮崎駿とその子どもたち」を読んで

 スタジオジブリ宮崎駿の映画作品を紐解き、ヒーロー、ヒロインとして描かれる作品が多かった初期作品。1990年代半ばの、近藤喜文監督の耳をすませばとの関わり、そして構想から紆余曲折の上完成した「生きろ」をキャッチコピーとしたもののけ姫を経て、宮崎駿監督のヒーロー、ヒロインの表現が大きく転換するターニングポイントだと評論する。もののけ姫のエボシは自然環境破壊を行って鉄を生成し、銃を作るが、一方で貧しい女性を村に集め、男性が偉ぶらないたたら場の生活。特に、銃を作る石火矢衆は、庶民が忌み嫌うハンセン病を丁寧に治療するエボシを描く。当時社会問題となり、ハンセン病の隔離政策から解放を挿入した宮崎駿スタジオジブリには感嘆する。現時点での最終作品となる「生きねば」をキャッチコピーとした風立ちぬの評価は賛否が大きく割れる。堀越次郎の半生と恋愛、堀辰雄の恋愛観と結核宮崎駿の父親(ゼロ戦の部品を製作)、母親(結核で療養・となりのトトロの母の療養)への思い、そして紅の豚に見られる空、飛行機への思いが交錯し、風立ちぬを鑑賞後した後の複雑なモヤモヤ感(劇場に5回足を運ぶことに)。

 スタジオジブリ宮崎駿作品を受けて、近年のエバンゲリオンの庵野秀明風立ちぬで堀越次郎の声優)、君の名は。新海誠、バケモノの子の細田守ら監督作品の、親子の関係、環境問題、ジェンダー平等、等を評論する。

 作り手の映画監督と映画会社、映画鑑賞者する子供たちがどのように受け取るかは自由意思に委ねられる。だからこそ、大人として自分たちが最善で最良と信じるものを手渡し、明け渡そうとするべきだ。大人である私たちは、本当の意味での「ヒューマー」をたたえた社会変革的な主体になりうるのかもしれない。

 

杉田俊介:ジャパニメーションの成熟と喪失 宮崎駿とその子どもたち.大月書店,2021(8月23日第1刷発行購読)

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