浅学菲才の嘆息

ナディア・ムラド,ジェナ・クラジェスキ,吉井智津(訳)の「THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語」を読んで

 アフガニスタンイスラム国の問題がホットニュースで流れる中、なぜ多くの国民が自国アフガニスタンを離れようとするのか。イスラム国とは何か。

 本書は、イラク北部にあるコーチョという小さな村に生まれ育った、女性ナディアの衝撃の体験を綴った作品である。少数派の宗教、ヤズディー教徒達が、貧しいながらも平和な日々を暮らしていた。しかし、湾岸戦争イラク戦争の戦後処理の民族・宗教対立の中で、平和な生活を少しずつ蝕み、ついにイスラム国の一軍による襲撃が始まり、家族はばらばらとなり、青年男性達は銃で処刑されるジェノサイド。若い女性は拉致され、人身売買、性奴隷として凌辱され、兵士達に輪姦される。著者ナディアも繰り返し身体的暴力と性奴隷の中で、偶然にも逃亡に成功し、奇跡的に良心的イラク家族によって、兄の元に逃げ切り、そして犠牲になった同じ民族達の救助に奔走し、世界に告発し、2018年ノーベル平和賞を受賞する。世界でも日本でも、そしてスラム系勢力の男尊女卑、家父長制、ミソジニー(女性蔑視)を自身の体験を元に、丹念に告発するが、著者の勇気と行動力に敬意を表したい。

 個人的にではあるが、アジア・太平洋戦争史を学ぶ中で、日本軍の蛮行である戦時性暴力と全く同じ構図が世界に未だに続いていることに、大きな嘆きを禁じ得ない。

 

ナディア・ムラド,ジェナ・クラジェスキ,吉井智津(訳):THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語.株式会社東洋出版社,2018(11月30日初版第1冊発行)

 

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