浅学菲才の嘆息

朱野帰子さんの「わたし、定時で帰ります。ライジング」を読んで

 1作品目は、盲従させられる労働者をインパール作戦の兵士と対比します。第2作のハイパーでは、盲従する労働者を忠臣蔵大石内蔵助と対比し、また野球経験者の上意下達を「脳筋(脳みそまで筋肉)、トランス(異常興奮)、マウンティング(自分の優位性を固持))と揶揄し、発注企業の力関係や課題をあぶり出します。そして、第3作となる本作では労働組合のないIT企業で、業務効率を改善して生産力を高め、時間外労働をなくし、賃上げを勝ち取る。蔓延る生活労働という労働者のモラル低下と理不尽な社内政治にも立ち向かう。以前の作品同様に、日本最初のストライキとなる明治時代の「雨宮製糸女工たちの闘い」、大正時代の「八幡製鉄所労働争議」など、日本が勝ち取ってきた労働争議も教訓にします。この30年間の日本で、消費税は3度増税され、健康保険料や介護保険料は上昇し続け、労働者の可処分所得が上がるどころか減り続け、青年たちのシビアな金銭感覚、そして女性管理職登用などジェンダー平等の課題にも切り込みます。

 

朱野帰子:わたし、定時で帰ります。ライジング.新潮社,2021(4月20日

 

www.shinchosha.co.jp

honto.jp