浅学菲才の嘆息

中脇初枝さんの「伝言」を読んで

 アジア・太平洋戦争末期の満州・新京(現・長春)で暮らす主人公の女学生。新京での日常生活がリアルに表現される。1932年3月1日に建国された満州国では、和(日本)・朝・満・蒙・漢(中)の五族協和をスローガンに国旗の5色旗を掲げた政策とは裏腹に、人種差別が顕著な満州。人種の垣根を越えて近隣住民と対等に付き合う両親の元で、学業や戦時動員に励む主人公。戦時動員では和紙の貼り合わせに格闘するが、何を製造するか知らされず、テーマはふ号作戦・風船爆弾。敗戦とロシア進軍で疲弊する生活と逃避行。戦後は、戦中の学友らと連絡をとり、語り部として活動し、明治大学(おそらく登戸研究所資料館)で風船爆弾の証言を行うシーンで幕を閉じる。近年、明治大学山田朗教授の研究や作家小林エリカ氏の小説を通じて、少女たちが風船爆弾をつくらされ、アメリカ人に犠牲者を出した負の歴史を検証しようとする活動に敬意を表したい。

 

中脇初枝:伝言.講談社,2023(8月21日冊発行購読)

 

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