浅学菲才の嘆息

保坂正康さんの「歴史の定説を破る-あの戦争は『勝ち』だった」を読んで

 黒船来航で、江戸幕府が倒れて大政奉還し、明治政府が樹立されるも外国からの不平等条約で経済困窮に喘ぐ日本。戊辰戦争西南戦争などの内戦を克服し、欧米列強並みに振る舞おうとして背伸びするが限度がある。歴史では、日清・日露の両戦役に勝利したとされるが、著者の分析では必ずしも日本に有利な条件は引き出せておらず、本当に勝利と言えるか。明治以降、ほぼ10年に1回の戦役を続け、ついにアジア・太平洋戦争で大敗を喫した日本。敗戦の反省の上に平和憲法を樹立し、78年間他国と戦争していない国は珍しい日本。敗戦の反省と被爆という悪夢こそ、戦後日本の復興と勝利があったのではないかと投げかける。

 戦争と言えばクラウゼビィッツの戦争論から始まる。戦争は、①生存手段の確保、②安心できる空間の確保、③支配欲、の3つが絡み合って始まる。また、局地戦闘に勝利しているにもかかわらず戦争に負けた日中戦争ベトナム戦争など枚挙に暇がない。昨今のウクライナ戦争は、クラウゼビィッツのテーゼと異なっているのではないか。また、従来の戦争を変え、プーチン大統領が核の使用をちらつかせ、第2次世界大戦以上に機械化部隊が全面に立ち、ドローンを使った新たな戦術も生まれ、戦争企業が参戦して戦争の営業行為に転じている。一方で、サイバー戦争で戦争の一部が不可視になっている部分も否めない。

 あらためて、本書は「戦争は敗者の選択なのだ」とし、それを逆説的に検証しようと試みた意図がある。近代日本史は戦闘に勝ったと喜び、自省や自己点検を怠り、そしてやっと最後の太平洋戦争で「勝った」のだとする。新たなテーゼの獲得に成功したのだとするが、どう判断するか著者らしく問題提起を投げかける。「負けるが勝ち」を日本は体現しているのか。新たな戦前にならぬよう更なる平和を希求する声を重ねることが必要だ。

 

保坂正康:歴史の定説を破る-あの戦争は「勝ち」だった.朝日新書,2023(4月30日第1刷発行購読)

 

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