2020年からのコロナパンデミックで、見直された「エッセンシャルワーカー」。しかし、労働法制の変化や低賃金、長時間労働、不安定雇用などの問題は、あまり照射されない。病院や介護施設が機能しなければ「いのちや生活」が成り立たない。スーパーマーケットやコンビニ、食堂・ファミレスがなければ餓死するかもしれない。今や日常的に利用するオンラインショップもトラックドライバーの献身的な労力がなければ成り立たない。そんな、日本の現状を、諸処の制度や仕組みが近いドイツとの対比の中で、日本の現状を多面・複眼で検証する。
1990年までは「東アジアの奇跡」と言われた経済発展を遂げた日本は、失われた30年で物価は高騰し、賃金は横ばいか減少し、健康保険料や介護保険料、年金保険料、消費税はうなぎ登りに上昇し、可処分所得が大幅に減少した豊とは言いづらい国になった。同時にエッセンシャルワーカーの処遇は極端に悪化した。その答えをひと言で言うなら、「自由化と不況の中で、現場で働く人にできる限りお金をまわさない仕組みが意識的に作られてきたため」と喝破する。またその仕組みとして、正規・非正規の二元化と委託・下請け関係の市場化。その拡大と普及の中で、現場に支払うお金を減らすことが日常化した政治の失敗と批判するが、まさにその通りの失われた30年。一方で、資金力(売上・予算)・権力(序列上位)・知力(ブレーン)を備えて強い発言力を持つ大組織は、自由化の趨勢と優越的立場を利用し、自分の利益はしっかり内部に確保(内部留保)しつつも現場にお金をまわさない、公取委の言う「下請けいじめ」、「買いたたき」、「下流へのしわ寄せ」を行った。その結果、現場の小企業・個人事業主・フリーランスは、無理して頑張って長時間働いても、なお収入が増えない状況に追い込まれていると断罪する。しかし、労働者も手放しで忍従しているわけではない。そもそもグラック企業や業界に、職種に応募しない、入らない、すぐに辞めるという退出戦略を実行し、退職代行業者がマスコミに取り上げられるなどの話題ともなっている。その結果、働く条件の悪いと言われた業界・職種ではどんどん若い担い手がいなくなり、高齢化が進んでいる産業・業種そのものの持続性が年々危機の度を深めている。厳しい中でも、イケアやイオンなどでは、パートの働き方をフルタイムと同じようにしようとする努力が大規模に進んでおり、エッセンシャルワーカーの現状と展望を深く学べる一冊となった。
田中洋子(編集):エッセンシャルワーカー.旬報社.2023(11月10日初版第1刷発行,2024年3月1日第3刷発行購読)