浅学菲才の嘆息

永尾広久さんの「八路軍(パーロ)とともに」を読んで

 近年、NHKスペシャルなどで、戦時中の日記、音声記録等のエゴドキュメントで戦時中を振り返る番組が放映される。昭和天皇をめぐっては、戦後の初代宮内庁長官田島道治の拝謁記、戦前、戦中の侍従長を務めた百武三郎日記、戦中の宮内省御用掛の松田道一の膨大なメモなど、次々と発見され、昭和天皇をめぐる歴史の事実に新たな発見が加わっている。

 本作品は、著者の叔父の久のエゴドキュメントであり、本人や家族の記憶を丹念に検証し、さらに時代背景や日中戦争の歴史、ロシアの対日参戦の背景など、歴史書籍としても大変勉強になる書籍である。主人公は、福岡県三又村(現大川市)の徴兵検査で、「身体上きわめて欠陥が多い」という、「丙種合格(甲乙丙丁)」にも拘わらず、敗戦1年前に徴収され、中国に送られる。満州終戦を迎え、生き残るため八路軍に加わり、中国内戦に巻き込まれて紡績工場の機械技術者となる。過酷な軍隊生活や兵隊同士の会話から、戦争の愚かさを投げかける。工場で知り合った日本人女性と結婚し、1953年に日本に帰国するまでの数奇な物語。時代背景を捉えつつ、主人公を浮かび上がらせる著者の知識と見識の深さには圧巻する。

 

永尾広久:八路軍とともに.花伝社,2023(7月25日初版第1版発行)

 

www.kadensha.net

honto.jp