浅学菲才の嘆息

書籍「戦争と性暴力の比較史へ向けて」を読んで

 書籍「戦争と性暴力の比較史に向けて 女性のエイジェンシー(行為主体性)を否定せずに戦争と性暴力を問題化することはいかに可能か」を読了した。大作であり、長期間を要したが、実にすばらしかった。

 近現代史の歴史研究者である、吉見義明氏、笠原九十九氏の書物はある程度読んできたが、オーラルヒストリーの視点も含め、多面的に探求された超大作であった。

 

上野 千鶴子 ,蘭 信三,平井 和子編:戦争と性暴力の比較史へ向けて.岩波新書,2018年2月23日

 

 日本軍「従軍慰安婦」や満蒙開拓団引き揚げ者のソ連兵への「性接待」など、従来は近現代史に詳しい中央大学教授の吉見義明氏が歴史学を中心に、丹念に調査し、証拠資料を元に歴史的事実が紹介されてきました。本書では、歴史学的研究は一定評価しつつも、被害者やその関係者からのナラティブな「聞き取り」とその積み重ねを丹念に行い、整理を進め、また膨大な資料を調査・対比し、編集されているのが特徴です。

 被害者である女性は何十年も「沈黙してきた」、いや「沈黙せざるを得なかった」。その背景を、「男尊女卑」、「家父長制」、「ミソジニー(女性蔑視)」、「男性の女性に対する支配欲」などの観点から読み解きます。

 現代もなお続く女性への「性差別」と「性被害」の問題の根底が、この書籍に集約されています。ジェンダー平等を進める学習書としても、是非本書をお読み頂きたい。

 

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