浅学菲才の嘆息

高橋弘希さんの「叩く」を読んで

 本作は、短編5編をまとめた書籍である。書名の「叩く」とは、第1編の主人公が「タタキ」となり金銭を盗む刹那、「タタキ」の紹介者に裏切られて殴打され、意識が戻るところからはじまる。面が割れ、このままでは捕まる。いっそのこと住人を殺害するか逡巡する心の揺れ。社会不適応やギャンブル依存となって生活困窮し、「タタキ」=犯罪に手を染めた自身の自堕落的生活を回想する。生育歴も含めて、自分が直面してる現実と思考のズレに主人公が気づいていない課題を浮かび上がらせる。第2編のアジサイにおいても、体調不良の妻を気遣うつもりで、外食を外ですませて帰ってくる夫。そんな夫に三行半を突きつけた、妻の気持ちが理解出来ない家父長制にどっぷり浸かった夫の認識のズレが際立つ。他編では、開発と環境破壊の問題、東日本震災で父を亡くした女子高生の日常生活と父への思いが溢れる。人間の深層心理をあぶり出し、登場人物は自分かもしれないと感じる作品でもあった。

 

高橋弘希:叩く.新潮社,2023(6月30日発行購読)

 

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