浅学菲才の嘆息

植原亮太さんの「ルポ虐待サバイバー」を読んで

 リハビリテーションの臨床に携わっていると障がいのみならず、個々の社会背景にぶつからざるを得ない。社会的弱者となる高齢者や小児を含む障がい児者の関わりは、障がい固有の問題だけでは解決しきれず、専門家の力も借りつつも、社会背景や生育歴、家族との関係など、否応なく考えさせられる。体調不良を起こす職員の対応についても従来は個人や職場の問題のみで捉えて解決を試みてきたが、近年は、職員とのたわいのない対話の中で、家族との関係や生育歴、経済状況、将来不安など、職場とプライベートの課題が相互に入り組んで、本人が苦しんでいること実感する。

 前振りは長くなったが、本書の著者は、精神保健福祉士公認心理師として、病院での心療内科領域の経験を活かし、教育委員会や福祉事務所での経験や教訓について、事例を元に丁寧に患者に向き合う。特に、若年生活保護者の課題や施設入居者等の18歳の制度上の壁を問題点としている点は、若い女性を性被害からなくそうとする仁藤夢乃さんの取り組みと重複するように思う。個々の症例の生い立ち、家族、とりわけ主たる養育者との関係で虐待サバイバー(暴力から生き抜いた人)となり、当事者の負のスパイラル思考を招き、自己責任に陥る様を丹念に検証する。養育者の虐待を契機に、心に深く刻まれた虐待の後遺症として、解離性障害パニック障害燃え尽き症候群などとして表れることを考証する。また適切な時期に適切な養育者との関係が問題となる愛着障害については、養育者からの「共感」で発達し、育まれていく重要性を強調する。そして、自身の生い立ちを振り返る中で、自己思考の変容と社会復帰、自立していく様は、非常に興味深い。行政機関や教員等の職員の対応とは一線を画しつつ、著者の関わりの反省も含めて、個々の事例に向き合う様は、やはり臨床家として真摯な姿勢に感銘を受ける。一方で、重要なことだが、著者が事例を通じて、たえず学ぶ姿勢をとり、相手に自身の意見を押しつけず、本人の気づきを大切にする姿勢は、ロールモデルとしたい。

 

本書は、第18回・開高健ノンフィクション賞の最終候補となった「児童虐待から助けられなかった大人たち」を、大幅に加筆・修正したものである。

 

植原亮太:ルポ虐待サバイバー.集英社新書,2022(11月22日第1刷発行購読

 

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