1991年に韓国人「慰安婦」金学順(キムハクスン)さんが、日本軍「慰安婦」として名乗り出て、日本政府に損害賠償を求めて提訴した。はじめて「従軍慰安婦」の実態を知らされた日本国民、中でも女性達に衝撃が走った。著者は、地方議員を経て、1983年から2007年まで4期24年を日本共産党参議委員議員として、慰安婦問題に向き合い、参議委員議員勇退後も「慰安婦」問題とジェンダー平等ゼミナールを創設し、調査や講演、宣伝活動に精力的にかかわってきた。
本書では、朝鮮や中国の女性に止まらずアジア地域に広く「慰安婦」にさせられた女性は認識されているにもかかわらず、日本人「慰安婦」は自ら産業「慰安婦」として、働いたのであって、強制性はなかったことにされている問題点に向き合う。ビルマ(現ミャンマー)従軍の日本人「慰安婦」名簿を入手し、6名の調査員で名簿に記載された9名を調査する。日本共産党の地方議員や地方の党員、または調査に協力して頂く地方の方々の力を借りて全国を飛び回るが、いずれも鬼籍に入っていて、確かな証言は得られない。しかし、確かに従軍した日本軍人の記録・手記には日本人「慰安婦」がいたことは間違いない。それは、日本人女性たちが遊郭の公娼であり、自分の意思で、或いは金儲けのために「慰安婦」になったという歴史修正主義者の攻撃と影響を受けた日本国民の意識がある事を理解する必要がる。後半は、戦後内閣は敗戦3日後には占領軍向けの慰安施設を準備するよう全国の警察に指令。全国に特殊慰安施設協会(RAA)を結成させ、当時の予算で1億円の予算を投入し、関係省庁を動員し、占領軍兵士に女性の性サービスを提供する施設が各地につくられたことを検証する。著者の国会質疑による旧内務省に保管されているであろう記録の開示を巡る国会質疑は、今に通じる記録の不開示・隠匿と同じ構図で有り、都合の悪い記録はなかったことにする日本の悪習をあぶり出す。今の性売買に通底する日本人「慰安婦」問題は日本女性の人権問題であると力説し、現在もフラワーデモやジェンダー問題に取り組む著者だからこそ書くことのできる調査報告書である。
特殊慰安婦協会(RAA)については、この数年で以下の書籍が発行されており、調査研究が進んだ。
芝田英昭:占領期の性暴力 戦時と平時の連続性から問う.新日本出版社,2022(12月5日初版購読)
平井和子:占領期の女性たちー日本と満州の性暴力・性売買「親密な交際」.岩波書店,2023(6月29日第1刷発行購読)
また、2024年7月8日(月)放送のNHK映像の世紀バタフライエフェクト「東京戦後ゼロ年」では、上記著者の平井和子氏がテロップに流れ、戦後の特殊慰安婦協会や街娼、パンパンなどを記録した貴重な番組となっている。
吉川春子:日本人「慰安婦」を忘れない.かもがわ出版,2023(5月6日第1刷発行購読)